前の記事を読む

次の記事を読む  

 
 

Vol.60  「冬の朝」  (2004/02/10)

午前7時の商店街。
シャッターはまだ閉まっている。
電信柱の突端に、プラスチックの花が咲く。
見上げれば、季節外れの花小径。

上り坂を向かい風が阻む。
色あせた靴の先を追っていたら、急に舗道が色濃く染まった。
豆腐屋の店先から流れ出た水。
まるで、山野を下る雪解け水に見える。

ステンレスの水槽には豆腐がゆらめく。
年老いた店主の、赤く荒れた手のひら。

何か言おうとしたら、乾いた唇がぴりりと痛んだ。

今夜は湯豆腐にしようか。
ほろりと崩れる温かな雪解け。
湯気の向こう、おぼろ月には少し早い。
   
 
 
    
前の記事を読む 次の記事を読む