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Vol.53  「my life without me 」  (2003/11/25)

映画『死ぬまでにしたい10のこと』を観た。
23歳にして、余命2ヶ月と告げられた女性の物語。
彼女には、失業中の夫と二人の娘がいる。

夜間は清掃のアルバイト、昼間は育児と家事。
毎日毎日、目の前のことだけを片付けて生きてきた。
人生はそんなものだと思っていた。

医師の白衣のポケットから差し出された、ジンジャーキャンディ。
夜明けのカフェで、彼女は「死ぬまでにしたい10のこと」のリストを作る。
注文したのは、一つだけ残っていたパイナップルチーズケーキ。

私が消えてしまうなら。
残りの人生を、しびれるほどの甘さで生きよう。

狭い部屋のベッドに横たわる。
ビーズのカーテン越しに、自分のいない家族の光景が見える。
食器の触れ合う音。夫と娘たちの笑い声。

私が消えてしまっても。
彼らの残りの人生が、少しでも色彩に満ちていて欲しい。

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忘れられないのは、部屋でキラキラと揺れていたビーズのカーテンだ。

まるで此岸と彼岸のように。
彼女の人生が終わっても、カーテンを隔てた向こう側の世界は続いていく。

終わりを知って、ようやく気付くことがある。
カーテン越しに見える幸せ。
今まで確かに、彼女はその場所にいた。

人生の終止符なんて、まだ怖い。
でも、いつかは私にも終わりが訪れる。
ビーズのカーテンをくぐる時。
そこから眺めた光景に、愛する私の家族がいますように。
   
 
 
    
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