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Vol.46  「ブーゲンビリア」  (2003/09/25)

空を背負った屋根上のシーサーと、路傍から匂い立つ落ちた花々と。 
近傍を飛び回る虫たちの羽音。
遠くで聞こえるのは三線の音。

うつ伏せになり、畳の目を頬で感じながら目を閉じていた。

縁側には、褪せたビーチサンダル。
珊瑚を砕いた白い道を歩く。
 
陽が陰っても、雲は去らなかった。

ブーゲンビリアを染め上げたような、コーラルピンクの夕。
空に色を捧げたやさしい花たちは、早くも眠ってしまったらしい。
 
歩みを早めて、浜辺にたどり着く。
やがて星たちが空に撒かれる。

あんなにも遠くにあるものたち。
手を伸ばしても届かないものたち。
なのに、どうして気持ちは満ちていくのだろう。

隣にいても、届かないことがあるのに。

魚の跳ねる音が辺りに響いた。
冷えた膝頭とか、さっきよりも増えた星の数とか、
そういうことで、時間の経過を知る。

時間に急かされることもなく、
闇に怯えることもなく。
ここでなら、まっくらでもいい。
   
 
 
    
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