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Vol.47  「見送り」  (2003/09/30)

4歳の頃、福岡に住んでいた。
大阪から祖母が遊びに来て、帰る日のこと。
荷造りを終えて玄関先に向かう後姿が、いつもよりも小さい気がした。

「じゃあ、おばあちゃん、帰るね」
「…うん」

言葉が出てこない。

「祐子?行くよ?」

家族は社宅の入り口まで見送りに行った。
私は頑なにそれを拒み、部屋で一人、去り行く車の音を聞いていた。
見送りはしないと、なぜか決めてしまった。

それなのに、戻って来た家族の顔を見た途端、堰を切ったように泣き出した。

「おばあちゃーん!」

自分でもびっくりした。
でも、もう祖母はいない。

思えばこの時からそうだった。
肝心なことはいつも言えない。
強く思っているのに、どうしても。

見えない気持ちを言葉で包もう。
そして、手に抱えて届けよう。
どんなに強く思っていても、それだけでは伝わらない。
祖母を乗せた車が走り去ってしまったように。

もう、気持ちを見送るのはやめようと思う。
プレゼントは、勇気を出して手渡しと決めている。
走り出した車を追いかけて。
   
 
 
    
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