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Vol.42  「ごんぎつね」  (2003/07/30)

土用の丑を過ぎた。
うなぎ、である。
うなぎと言えば、なぜか「ごんぎつね」を思い出す。
小学4年生の国語の教科書に載っていた、新美南吉氏の作品だ。

【あらすじ】
いたずらばかりしていたきつねのごんは、兵十のおっかさんの葬列に出会った。
おっかさんは、うなぎが食べたいと言って死んだという。
ごんは数日前に、兵十のうなぎを逃がしてしまったのだ。
それ以来、ごんはいわしや栗やまつたけを、次の日も次の日も兵十の家に持って行った。
皆は神様の仕業と思っていた。  
しかしある日、ごんは栗を届けるところを兵十に見つかり、
「うなぎを盗んだいたずらぎつねめ」と鉄砲で撃たれてしまう。

最後の場面が、未だに忘れられない。

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「おや。」
兵十はびっくりして、ごんに目を落としました。
「ごん、おまい(おまえ)だったのか、いつも、くりをくれたのは。」
ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなずきました。
兵十は、ひなわじゅうをばたりと取り落としました。
青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました。

(光村図書刊「小学4年生国語・下」 新美南吉「ごんぎつね」より)

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授業を何時間か終えると、テストがあった。
ちょっと青みがかった、業者製のテスト用紙。
忘れもしないのは、最後の問題だ。

【問い】ごんは、最後どうなってしまうのでしょうか。

幼いながらに、「何を聞いているんだ!?」と仰天した。
確かに、はっきりとは書いていないけれど。
そんなこと、とっくに分かっているのに。
もう、ごんをそっとしておいて欲しい。

考え抜いた挙句、私はこう書いた。

【答え】はかなくなってしまった。

しかし、見事に答案用紙にはバツがついていた。

【模範解答】死んでしまった。

「死ぬ」と書くことで、ごんのやさしさまで奪われそうな気がした。
ごんと兵十の気持ちがいつか届き合うといいなと思いながら、なるべく別の言葉を探した。
でも、バツだった。

今思うと、完全に物語の世界に入り込んでいたなぁ、と思う。
出題側の意図に疑問を抱くのも、ちょっと違う気がする。
でも本当は、少しだけ後悔している。
あの時、「先生、どうしてこの答えが間違っているのですか」と聞けなかったこと。

あれから、もう15年。
今年もうなぎを食べ損ねてしまったなぁ。
   
 
 
    
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