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Vol.36  「すり込み」  (2003/05/21)

中学二年生の時だったと思う。
その日は自習で、教材用ビデオの感想文を提出することになっていた。

生まれたてのアヒルの赤ちゃんが二匹。
一匹は本物の親の前に、もう一匹はおもちゃのアヒルの前に。
両者とも、それぞれの後をよちよちと追いかける。

初めて見た動くものを、母親だと思い込む。
この現象が「すり込み」だということを、当時初めて知った。

配られた小さなわら半紙。
感想なんて、何も書けなかった。
おもちゃのアヒルにどこまでもついていく。
あなたのお母さんは、そっちじゃない。

ずっと知らないままが幸せなことなのか。
邪気の無さや健気さが、見る者の胸を打つ。

今も、電池で動くおもちゃが苦手なのは、たぶんそのせいだろう。
デパートのおもちゃ売り場には、シンバルを叩くサルや、丸いヒヨコがぴよぴよ。
足早に通り過ぎる度に、あの日のアヒルを思う。
   
 
 
    
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