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Vol.57 「旅行記(クロアチア編)」(2007/11/19)

師走ですね。
いよいよ、寒さが身に染みます。

2ヶ月前の旅行先と、ちょうど同じぐらいの温度でしょうか…。
行って来たのは、中欧です。

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旧市街の城壁に登ると、落ち葉を敷き詰めたように柿色の瓦屋根が重なっていた。
遥か日本では、紅葉にはまだ早い。



遅い夏休み、クロアチアを旅した。
アドリア海沿岸の小都市、ドブロヴニクは10月でも真冬の寒さで、
現地で最初に調達したのは、水でも免税品でもなく、フード付きのダウンジャケットだった。

雨が、降りそうで降らない。
平たいコンクリートのような上空からは、冷たい風が吹きおろすばかり。

小一時間かけて、市街を囲む城壁をぐるりと巡る。



世界遺産に登録されています


かねてからの願いは、昔観た映画『魔女の宅急便』のモデルとも言われたこの都市を訪れることだった。
「アドリア海の真珠」と呼ばれる景色に胸膨らませたが、今日に限って陽が一向に差さない。
冷えた耳をニットキャップで折りたたみ、煉瓦の遊歩道を歩く。
城壁の遥か下、濃紺の海が揺れる。
内側には、すっぽりくるまれた家々。
無造作に干された洗濯物が、だらりとばんざいをしている。
鮮やかな子ども用靴下が揺れるのを見ていたら、急に、ホットチョコレートが飲みたくなった。


  
風で、波の音が聞こえません           中世の趣そのままに   .


夜になって、雨が降りだした。
小さなレストランで、魚介を使ったパスタを注文する。
ムール貝もカラマリも絶品だったが、パスタは驚くほどのびていた。
中欧はアルデンテの圏外だろうか、うどんのようなパスタを口に運びながら、
ふと、昼間の城壁を思い出す。
干されたままの洗濯物は、もう取り込まれただろうか。
忘れられないのは、落ち葉の瓦屋根の連なり。
遠い記憶をぱりぱり踏み締めたくなるような。



カラマリにレモンを絞って


歩いて、お茶をして。
結局、普段していることに変わりはない。
曇りのち雨、思った以上の寒さ。

それでも、別の場所に居ることは、どこか特別だった。
帰りに、ホットチョコレートをもう一杯飲んでいこう。
真っ白いホイップクリームは、見損なった雲の代わり。
もふもふ。ほこほこ。
買ったばかりのダウンの上に、もう一枚、何かを羽織っている。



(「日刊ゲンダイ 週末版」11月19日発刊)
   
 
 
    
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