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Vol. 36 「イタリア散歩」(2006/06/26・07/17)

9月になりました。
洗濯物を取り込んでいたら、電車の轟音に混じって虫の声。
ベランダライブ、悪くないかも。

そうそう。
初夏に、海外出張に行って来ました。
イタリア紀行、よろしければご一読下さい。

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ローマを、お散歩してきました。
『ちい散歩』では、都内のお勧め散歩コースをご案内しています。今回は、その海外編。2泊4日の強行スケジュールではありましたが、ガイドブックは持たずに、ふらりと歩いてきました。
ご一緒したのは、ローマ在住20年の日本人マダム。イタリア人と結婚されて、市内にお住まいだそうです。

午前9時に、スペイン広場で待ち合わせ。ブランド店がひしめく通りを抜けて、路地へと入ります。

路地裏を抜けて…

ひしめく市場のトマト

腕利きの職人たちの工房が軒を連ねる中で目に飛び込んできたのは、女性用のランジェリーショップでした。赤、紫、緑、オレンジ…まるで画材屋さんを覗いているような原色の数々。店頭に飾られた総レースの豪華な下着を唖然と眺めていたら、「今度、プレゼントしてもらったら?」確かに店内には、男性の姿も多く見られました。マダム曰く、イタリアの男性はパートナーの下着のサイズをきちんと把握していて、似合う下着を贈ることはごく当たり前だそうです。

「女性が美しくあることが、男性にとっても幸せなのよ」 

すらりと伸びた小麦色の手足に、風になびく長い髪。そんなマダムに言われてしまっては、黙って頷いてしまいます。

路地を抜けると、古いアパートが立ち並んでいました。風向きによって、甘い香りがふわりと立ち込めてきます。見渡せば、どの家の窓からもブーゲンビリアやマリーゴールドが覗いていました。日差しに滲んで溶け出しそうな、鮮やかな色彩の連なり。


ブーゲンビリア

花の窓辺

「窓辺が、お花の額縁みたい!」
「ローマの人は、花が大好きだからね」

マダムがそっと教えてくれたのは、結婚式の思い出でした。式の当日、家のドアを開けると、ご主人の計らいで辺り一面にバラの花が敷き詰められていたそうです。

「挙式の後は、馬車でローマ市内を一周したの」
ジェラートを片手に微笑んで、「今では、そんなことはしてくれないけどね」。
バラの花束ではなく、バラの絨毯。
羨ましいやら、うっとりするやら、気恥ずかしいやら…。
私は、手に持った丼ほどのジェラートをほおばることで精一杯でした。


「ランチは、どうする?」
お昼に立ち寄ったセルフスタイルの食堂は、地元の人々で賑わっていました。ラタトゥユ(野菜の煮込み)、トリッパ(牛の胃袋)、様々な形のパスタ…。カルボナーラを頼んだら、お皿に山盛り3杯。その横には、草鞋のような特大ステーキがどんと盛られました。日本でいう小鉢はなく、全てがメインディッシュです。


この後、さらにピザが運ばれて来ました

食事が終わっても、周りは一向に席を立つ気配がありません。皆が楽しそうに、エスプレッソを片手に大声で話しています。何を話しているのかマダムに聞いてみたら、「我が家の庭が、お互いどれだけ素晴らしいかを語り合っているみたい」。

当初、行程表には“昼食15分”と記されていました。もともと2泊4日の強行日程。日本でのロケでは、大抵、移動中にコンビニに立ち寄って、車内で昼食をとります。
実は、ディレクターが最初にマダムにリクエストしたのはファストフード店でした。何せ、分刻みのスケジュールです。日のあるうちに、全ての場所を撮り終えねばなりません。

「ええと、この近くにあったかしら…」
お馴染みのハンバーガーショップの看板は、結局、見つかりませんでした。
「ゆっくり食事を楽しむことが、何よりの目的。そのために、皆、働いているの」
日本で牛丼をかき込むように、イタリアではパスタを流し込む訳にはいかないようです。

気が付いたら、私たちも1時間以上食堂にいました。その後は、市場を巡り、川沿いをひたすらに歩いて、オープンカフェで夕涼み。赤ワインがこぼれたような見事な夕日に、それぞれが思いを馳せていました。

「日が暮れたら暮れたで、まぁいいか」と、ディレクター。
「照明で何とかなりますよ」と、カメラマン。
「今日は遅くなるって、後で主人に電話するわ」と、マダム。

夕日はいよいよ色みを増して、街をとろりと染め上げます。
出番を控えた月明かりもおぼろで、時計の秒針までもがまどろんでいるようです。
お散歩の終着点は、15時までには着くはずだったトレビの泉。
コインを投げた頃には、すっかり夜も更けていました。


(「日刊ゲンダイ」6月26日・7月17日発刊)

   
 
 
    
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