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Vol.26 7月27日 『ある朝スウプは』


今回ご紹介するのは、自主制作映画です。
高橋泉監督の『ある朝スウプは』。
ひと組のカップルの、変容と崩壊を描いた作品です。



小さい頃、よくかくれんぼをした。
「もういいかい?」「まあだだよ」
「もういいかい?」「もういいよ」
鬼は、くまなく私たちを探す。
私たちは、何とかして見つからない場所を探す。
「みいつけた」
みんなが見つかったら、元の場所に戻ってくる。

 小さい頃、よく迷子にもなった。
デパートでも、動物園でも。
「…からお越しの、○○さま…」
母は必死で、私を探す。
はぐれた私は、母を探す。
館内放送が、神様の声に聞こえた。
寂しくて、恐くて、一刻も早く会いたかった。
   
 かくれんぼは、故意にその場からいなくなる遊びだ。 
迷子は、予期せずその場からいなくなるハプニングだ。
だが、どちらもきちんと、元の場所に戻って来られた。
小さい頃は。

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「ある朝スウプは」

東京で暮らす、ひと組のカップル。
北川はパニック障害によって社会生活がままならなくなり、やがてセミナーと称する新興宗教にのめりこんでいく。
志津は職を失い、再就職活動をしながら、北川を今までの日常に呼び戻そうとする。

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パニック障害。
男は、自分の中で迷子になった。

失業。
女は、世の中で迷子になった。

女は、職探しに没頭する。
くたくたになって帰る場所は、男と暮らす部屋だった。
男は、新興宗教に傾倒する。
一緒に暮らしていても、心は帰って来なかった。

迷子になった大人たちは、「ただいま」を求めてさまよう。
部屋に置かれた、体内のカルマを浄化するという黄色いソファ。
宗教を非難すれば、男は反論する。
女はなおさら、引き戻そうと必死になる。
かくれんぼが、徐々に鬼ごっことなっていく。

いつもの朝ごはん。 向かい合って、卵をかきまわす音。
玄関先の洗濯機が回る音。
出勤前に、ストッキングをすべらせる音。
スクリーンいっぱいに響く、生活の音。
そこに、声はなかった。

■作品データ/『 ある朝スウプは』
監督・脚本・撮影・編集:高橋泉
出演:廣末哲万、並木愛枝
配給:ぴあ・ユーロスペース/2004/日本/90分

※7/30(土)よりユーロスペースにてレイトショー公開

『ある朝スウプは』公式HP:

http://www.pia.co.jp/pff/soup/
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この作品は、「PFFアワード2004」にてグランプリを獲得し、各国の映画祭でも高く評価されています。
「PFF(ぴあフィルムフェスティバル)」と言えば、1997年に創設された、若き映画監督の登竜門です。以来、自主映画を募集して審査してきましたが、94年からは東宝と提携してレーベルを設立し、若手監督のバックアップにさらに力を注いでいます。
出身監督には、森田芳光監督(77年受賞)、犬童一心監督(79年)、黒沢清監督(81年)、橋口亮輔監督(86、89年)らの名前が。

【近況報告】
ハードディスクプレイヤーを買いました。
りんごのマークの、あいつです。
そして、梅雨空のような、シルバーです。
すっぴんだと心許無いので、似合う洋服を探しています。
夏服らしく、シリコンケースにしようかなぁ…。

   
 
 
    
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