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Vol.25 5月25日 『運命じゃない人』


「日本一のいい人」と大金を巡り、5人の男女が繰り広げるエピソードをそれぞれの視点から見せる一晩の物語。
気弱なサラリーマン、探偵、女結婚詐欺師、失恋した女、ヤクザの組長―彼らに起こった出来事は、時間軸のバトンタッチと共に、徐々に重ね合わされていく。
疑うことを知らない純朴なサラリーマン宮田と、金のために巧みに相手を翻弄する結婚詐欺師のあゆみ。男の純情と女の狡さが、哀しくもどこかコミカルに描かれている。

○○さんって、

「いい男よね」「いい女だよな」
「いい人ね」「いい奥さんになりそう」

各々には、微妙なニュアンスに定義付けされた共通認識が存在している。
香りに例えるなら、強い香水と洗濯石鹸のような。
お酒に例えるなら、テキーラとカルアミルクのような。

時節柄、男女を語るなら、話題はおのずと「純愛」に及ぶ。
純粋とは、真っ直ぐなことだ。つまり、単純なことでもある。何に対して真っ直ぐかというと、相手であり、自分でもある。気持ちを伝え合うことで、理解し、時には妥協し、変化し、受け入れる。恋人がいる人を好きになるのも、大金持ちを好きになることも。互いから目を逸らさないことを純愛と言うならば、その渦中にいる二人は、どんな環境にあろうとも、互いにとって「いい男」であり「いい女」なのだと思う。
宮田(純朴なサラリーマン)とあゆみ(結婚詐欺師)という、一見対照的な二人も、自身の気持ちに対しては真っ直ぐだった。ただ、互いの視線の先が重なることがなかったために、結果的には『運命じゃない人』となってしまった。

大学生の頃、スピッツの『運命の人』という歌を繰り返し聴いていた。

バスの揺れ方で、人生の意味が分かった日曜日
でも、君は運命の人だから、強く手を握る

旅行先かもしれない。歩いている時の、ふとした一言かもしれない。体を流れる感情がさざ波を立てる瞬間は確かにあり、それを告げる相手がいれば、私はいつだって真っ直ぐな気持ちになれる。
だが、たまに不安にもなる。揺るがない幸せなど、あるのだろうか。
運命じゃないのも、また運命。
そんな風に運命を受け入れられる人こそ、いさぎ「いい女」なんだろうな。

■作品データ/『 運命じゃない人』
◆2005年カンヌ国際映画祭 批評家週間正式出品作品◆

監督:内田けんじ
出演:中村靖日、霧島れいか、山中聡、山下規介、板谷由夏
配給:クロックワークス/2004年/日本/98分

※夏休み、ユーロスペースにてロードショー

『運命じゃない人』公式HP:

http://www.pia.co.jp/pff/unmei/

映画館のもうひとつのお楽しみ、パンフレット。
鑑賞後は、何度も読み返しながら帰りの電車に揺られるのが常です。

   
 
 
    
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