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Vol.24 3月31日 『アラキメンタリ』


「君が見ているのは、過去なの?未来なの?」

写真家、荒木経惟。
丸いサングラス、突き出たお腹に赤いサスペンダー。
さっきから、窓向の女性に語りかけている。

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レンズの先に、何を見る?
カメラの前で、どんな顔する?
例えば、こんな日常で。

『一枚目「二次会」』

郵便受けには、春物のカタログと、二次会の知らせ。
風の便りには聞いていた。

切り分けられたウェディングケーキが、銀の皿に運ばれてくる。
5年ぶりに再会した新郎の友人は、転勤して、今は福岡で働いている。

「はい、撮るよー」

集合写真。
デジタルカメラと撮影者が、入れ替わり立ち代り。

「なんか、『お幸せに』なんて、照れるよね」

周りも自分も、あの頃のままのような気がして。
この場では、学生時代に戻った気がして。
でも、変わりゆくことを、みんな本当は分かっている。

「よし、三次会、行こう」

レンズの先には、過去が見える。
明け方には、それぞれの終わりなき日常へ。

『二枚目「散歩」』

冬晴れの日曜日。
カメラを片手に歩く。

「空は、反則だと思うんだ」
「何で?」
「どう撮ったって、きれいに決まっているもの」

そんなことはない。
空もきれいだけれど、空を見上げる人がきれい。
そういう気持ちになることが、きれい。
塞いでいたら、見上げることすらしないから。

レンズの先には、気持ちが見える。
歩き疲れた夕暮れ、温かいミルクを求めて。

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寝て、起きて。
服を脱いだり、着たり。
庭先の梅も、生け花も。
瞬きするように、日常がシャッターで切り取られるということ。

「アラキメンタリ」は、70分間のドキュメンタリー映画である。
今までは、アラーキーが撮った写真を見ることはあっても、写真を撮っているアラーキーを見ることはなかった。
会話をするように、呼吸をするように。
撮る方も撮られる方も、ごく自然にそこに居た。

と、いうことは。
生まれて死ぬまでが、ドキュメンタリーだ。
見つめてくれる人は、誰ですか?

■作品データ/『アラキメンタリ』
監督・撮影:トラヴィス・クローゼ
音楽:DJクラッシュ
出演:荒木経惟、北野武、ビョーク、森山大道、神蔵美子
配給:エレファント・ピクチャー/2004年/アメリカ/

※3/5(土)よりライズエックスにて公開中。

『アラキメンタリ』公式HP:
http://www.elephant-picture.jp/araki/index.html

ヌードだとか、そういう枠を越えて。
「個」を許した相手にしか、外面も内面もさらけ出すことなど出来ません。
そのような関係を瞬時に作ってしまう、写真家・アラーキーの魅力(というよりは魔力)
に、とても惹きつけられた70分間でした。

でも、奥さんだけは彼にとって特別。
陽子夫人の写真を見て、思いました。
全身全霊で愛するって、こういうことなんだ。

…なんてことを、今、メイプルチョコレートを食べながら書いています。
とろけるわぁ。

   
 
 
    
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