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Vol.11 7月1日 『少女の髪どめ』

 
『運動靴と赤い金魚』で知られる、イランのマジッド・マジディ監督の最新作。

主人公は建築現場で働く17歳のイラン人。彼は新たに雇われたアフガン人の少年の
重大な秘密―実は長い髪の美しい少女だった―を知ったその瞬間から、彼女の秘密
を守るためにどんな犠牲をも厭わないことを誓う。

君のために。

恋とはそういうものだ。
現実の全てを、この気持ちで切り取ろうとする。
現実の全てが、この気持ちに染められる。

アフガン難民である彼女を、役人から守りたい。
怪我をして動けない彼女の父親を助けたい。
そのために、身代わりとなって殴られたり、自分の稼ぎ全てを父親の治療代に充て
たり。
彼女に触れることはおろか、じかに声をかけることさえ出来なくても。

灰色の作業場には、色が灯り始める。
労働者たちに出すチャイの、つややかな茶色。
食事場のテーブルに敷かれたクロスの、鮮やかな緑色。
調理場で揺らめく、仕切りカーテンの淡い黄色。
世界が色付いた。

どこにいても、どの時代でも。
何歳になっても、何が起こっても。
ただ、そばにいたいと思う。

彼女がアフガンへと去る日。
荷物を運ぼうとして、かごの野菜を地面に落としてしまう。そこへ駆け寄る少年。
目が合ったのも束の間、彼女の一瞬の微笑みは、ブルカによって覆い隠される。
イスラム教徒の女性たちが髪や体を隠すために身に着けるブルカ。女性の象徴とも
言えるそれを翻すさまは、ずっと性別を偽っていた彼女の精一杯の主張に思えた。

映画の帰り道。
午後の日差しは強く、私は帽子を目深に被った。
ふと、ブルカを纏った彼女を思う。
少年の前で、もう決して脱ぐことのないはずの。
二人が再び会うことも、たぶんないだろう。

君のために。

少年がやったことの、たったひとつも少女に伝わらなかったけれど。

■作品データ/『少女の髪どめ』
監督・脚本:マジッド・マジディ
撮影:マハマド・ダウディ
音楽:アーマド・ペジュマン
美術:ベーザド・カッザジ
出演:ホセイン・アベディニ、マハマド・アミル・ナジ、ザーラ・バーラミ、ホセイン・ラヒミ、ゴラムアリ・バクシ
配給:日本ヘラルド/2001年/イラン/96分

※シネマライズ他で上映中

『少女の髪どめ』サイト
http://www.herald-arthouse.com/kamidome/

イラン映画界では、『桜桃の味』『風が吹くまま』のアッバス・キアロスタミが第1世代、『サイクリスト』『カンダハール』のモフセン・マフマルバフが第2世代。この作品の監督であるマジッド・マジディは、彼らに続く第3世代と位置付けられています。

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