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Vol. 5 11月11日 『ごめん』

 
1990年、校庭を駆ける、小学6年生の私。
2002年、スタジオに向かう、入社2年目の私。

どちらも同じ昼下がり。12年という歳月が、流れただけで。
時間の経過と共に、背は伸び、肌は荒れ、賢くもなって、歳をとっていく。
訪れる季節の表情は変わらなくとも、心を捉えるポイントは明らかに変わってきている。
小学生の時は、目に映るものが世の中そのものだった。
帰宅後のおやつや明日の苦手な体育の授業だけが、
私のすべてだった。

さすがに23歳にもなってこのままだと困るのだが、自分の周りの半径数メートル内での日常が、あまりにも色を失っていたことに驚く。紙面やテレビ画面から知る世の中にピントを合わせていると、身近に起きている事象が見事にピンボケしている。

写真を撮ってみると、よく分かる。
普段何気なく通り過ぎている風景が、いかに多いかということに。

ガソリンスタンドに「灯油あります」の文字。冬が、近い。

別にカメラを構えなくても、日常は、至る所に息づいている。でも、こういった「事柄」は捉えられても、12年前の「気持ち」まではなかなか思い出せないからなぁ…。 

小学生の頃の、あり余る日常。知識も知恵もない分、真正面からぶつかるしかなかった。考える前に、まず行動。美しいから、色づいた落ち葉を拾う。眠いから、布団に入る。何てシンプルな日々。
そんな時分に「恋」だなんて…。いや実際、23歳になった今でもムズカシイこと。
少年少女に、この微妙な機微が分かるのだろうか?

一目惚れした中学2年生のナオ(櫻谷由貴花)を追い掛け回す、小学6年生のセイ(久野雅弘)。

「あんた、ストーカーちゃうやろな」
「僕にもよう分からんけど、まじめな気持ちです」

両親が離婚し、父親と二人で暮らしているナオに対する一言。

「ナオコさん、寂しくありませんか」
「寂しいっていうたら七尾クンがどうにかしてくれるん?」

シンプルだが、深い。いや、シンプルだからこそ…か。まっすぐな気持ちにハッとする。
もちろん、割り切れないことだってある。しかし、彼らの日々は色鮮やかなマーブル模様だ。大人たちの漫然としたもやもやと異なるのは、自分の気持ちに正直だからだろう。まぁ、それ故の残酷性もあるのだが。

小学6年生にはもう戻れないが、当時の気持ちは思い出した。
久しぶりに小学校の卒業アルバムを開いた時のような、あの気持ち。
まっすぐな目で「好きだから、好きなんです」なんて…あぁ、言われてみたいし、言ってみたい。ランドセルを背負っていなくても、この言葉、似合うだろうか?

■作品データ/『ごめん』■
監督:冨樫 森
出演:久野雅弘、櫻谷由貴花、佐藤翔一、栗原卓也、國村 隼、
    河合美智子、斎藤 歩、三田篤子、ほか

配給:オフィスシロウズ、メディアボックス/2002年/日本

※2002年10月12日から11月8日までテアトル新宿にて公開中

 

⇒以降、大阪、名古屋などの上映スケジュールなどはサイトで…
■『ごめん』公式サイト

http://www.shirous.com/gomen/

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