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「耳ほっか」(2012/12/25)

「耳ほっか、ありますか?」
「イヤーマフラーですね?」

百貨店の雑貨売り場。
店員さんに聞き返されて、耳まで真っ赤になった。
イヤーマフラー?
小さい頃は、確か「耳ほっか」と言っていた気がする。

昔から、寒くなると耳が痛くなる。
風が吹けば、なおさら。
個人差はあるそうだが、血行が悪くなることが主な理由らしい。
髪を短く切ったこともあり、この冬の耳まわりは例年以上に無防備だ。

「こちらになります」

ふこふこ、もふもふ。
目の前には、素材も色も質感も異なる、様々な品物が並ぶ。
ほわほわ、ふむふむ。
これなら、お洒落なカチューシャと変わりない。
嬉しくなって、うさぎのしっぽのようなベージュのファーを手に取り、
早速、鏡の前で試着する。

…。

世の中に、毛布がかかった。
両耳を膨らませた自分のそばで、店員さんが何か言っている。

…?

そう言えば、幼稚園の時。
車の音が聞こえなくて危ないからと、
母は、耳ほっかを買ってくれなかった。

耳の痛い季節に、耳ほっか。
耳の痛い話も、冷たい風と共に、時々キインと運ばれる。

聞く?
それとも、ふさぐ?

車の音は、聞こえないと危ないけれど、
聞こえなくて救われることも、たまにある。

うさぎのしっぽを、ころりと両耳に携えて、
すっかり暗くなった師走の街を歩く。
クリスマスの歌が、どこか遠くから聞こえてくる。



耳ほっかと、チェブラーシカ。
少し、似ていませんか?


(12月10日配信)   

   
 
    
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