「女子校、だったよね?」
さっきまで饒舌だった先輩が、急に声をひそめる。
「実は、娘のお受験を考えていて…」
初めて連れて行ってもらった新宿ゴールデン街。
週はじめの大雨でも、店内は混んでいた。
数名で、キチキチに腰掛ける。
先輩には、5歳のお嬢さんがいる。
奥様の強い意向で、私立の小学校受験を考えているらしい。
面接には保護者が同席するので、その際に何を言えば良いのか、
こっそり教えて欲しいという。
先日、受験のために通っている塾で、模擬面接が行われた時。
簡潔な説明を心がけ、「ポイントは3つです。まずは…」と順に説明したところ、
「機械的」「心がこもっていない」と、反応は芳しくなかったそうだ。
「番組のコメンテーターみたい!」
「まさか、フリップ(手持ちボード)作っていないですよね?」
店内からも一斉に突っ込みが入る中、
黙って芋焼酎を飲んでいたもう一人の先輩が、一言。
「…どんな風に育って欲しい?」
彼のお嬢さんは、女子中学校に通っている。
雨脚が弱まるのを待って、店を出た。
力任せにビニル傘を開くと、反れた盃が雨を汲む。
思えば、周りには、力強い女子が多かった。
女子校育ち。
一般的には、どのような印象なのだろう。
かつて、70代の政治家と番組でご一緒した際、
ひょんなことから出身校の話になった。
女子大出身とお伝えすると、「良いお嫁さんだなぁ」。
女子校=良妻賢母。
この価値観は、どの世代まで当てはまるのだろうか。
後日、母親に改めて聞いてみた。
「どうして、女子校を勧めたの?」
答えは明確だった。
自立して欲しかったから。
母の世代は、結婚を機に仕事を辞めることが当たり前だった。
生きるための選択肢は、多い方が良い。
社会に出て、人生を歩む上でのキャリアを身につけて欲しい。
果たして、その結果は―。
10年以上を女子校で過ごしたものの、客観的な自己分析は難しい。
ゴールデン街でのやり取りを思い返せば、
先輩の3つのポイント解説も、突っ込むことなど出来なかった。
母校では、教育理念が「三大綱領」に集約されている。
@ 信念徹底
A 自発創生
B 共同奉仕
何かを「やる」と決めたら、やり通す。
誰かに「やって」と頼るのではなく、「やるよ」と自ら手を挙げる。
若しくは、共に「やろう」と歩み寄る。
良く言えば、自立心旺盛!
裏を返せば…可愛げがない。
女子校出身の友人に会うと、
「一歩引いて、相手を立てることが自然に出来なかった」類の話が、
出てくる、出てくる。
どんな風に、育って欲しい?
どんな風に、育っただろう。
答えがなくても、
答えはひとつ。
女子校へ、ようこそ!
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