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「WATCH」(2012/9/20)

何かを決断する時。
誰かに相談したり、一人で考え抜いたり。
その結果は、果たして。

9月7日(金)。
『激論!クロスファイア』では、自民党の谷垣禎一総裁にお越し頂いた。
国会会期末を迎えての会見が直前まで開かれていて、
終了後、そのままスタジオに直行しての収録だった。

月末には、自民党総裁選が控えている。
谷垣総裁は野田総理との会談で、「近いうちに信を問う」と合意している。
選挙後の政治の枠組みが注視される中、
次期総裁は、総理大臣への可能性を多分に含む。

その総裁選に、出馬するのか、しないのか。
会見では明言を避けた総裁に、番組で改めて伺った。

「重鎮たちは、谷垣さんの不支持を公言されていますが?」
「石原幹事長が出馬するとの声もありますが、幹事長との信頼関係は?」

「最後の壁は、私が体当たりして壊します」
会見でも用いられたフレーズを繰り返す中、次第に額には汗が滲む。
壁は、重鎮ではないですよね?
コメンテーターが念を押すと、力強く「政権の壁です」と答えた。

質問を、投げかける。
答えが、かわされる。
時として、表情は言葉より雄弁だ。
「ですから…」
振り上げられた左腕には、とりわけ大きな腕時計が巻かれていた。


予てから、政治家の手元に注目している。
議論が白熱するにつれて、身振り手振りが大きくなることが多く、
カメラは徐々に、顔まわりにズームしていく。

ある政治家は、重厚で豪奢な腕時計に、ぴかぴかに磨かれたネイル。
若手の幹部に多いのは、スイス製のクロノグラフ。

そして、谷垣総裁。
ご本人の趣味でもある、自転車レース用のスポーツウォッチを愛用されている。
衝撃に強く、質実剛健。
スーツとの組合せが斬新で、よく覚えている。

9月10日(月)。
週明けの会見で、総裁は「出馬断念」を明らかにした。
政権の壁は、自分が体当たりして―。
驚いて政治部に問い合わせると、この後、テレビ朝日の番組に出演するという。

放送終了後。
スタジオから出てきた総裁を、すぐさま番記者たちが取り囲む。
「谷垣さん」
意を決して、後ろから声をかける。

「この前(の出演時)と比べて、随分変わっちゃったなあ…」

くるりと振り返り、手が差し出される。
濃紺のスーツの袖からは、あの腕時計がのぞいていた。
翌日、石原伸晃幹事長が、正式に出馬を表明した。

身を引く決断。
手を挙げる決断。
時間は、刻々と過ぎていく。






(9月17日配信)   

   
 
    
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