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「コラム道」(2012/6/5)

と、あるところに。
ペンとマイクが落ちていたとしたら。

記者はペンを拾って、記事を書き始め、
アナウンサーはマイクを拾って、話し始めるだろう。

4月から、CS朝日ニュースター『ニュースの深層』で、
コラムニストの小田嶋隆さんとご一緒させて頂いている。
今までに取り上げたテーマは、出版業界の現状や、アメリカの新聞メディアなど、
活字に関するものが多い。

「テレビで話すには、瞬発力が要りますね」と、小田嶋さん。
「コラムで綴るには、何が要りますか?」と、私。

活字と映像。
文章と会話。
「言葉」どうしの共演とはいえ、なかなか難しい。

先日、出版された『小田嶋隆のコラム道』によると、
会話が得意な人は、テニスプレーヤーに似ているという。
どんなサーブにも対応出来る、瞬発力。
これぞ、テレビ(特にスタジオ進行)で求められる能力だ。

例えば、担当している討論番組『激論!クロスファイア』にて。
「橋下市長と渡邉恒雄さん、どっちが独裁だと思う?」
田原総一朗さんからの問いかけに、沈黙は厳禁だ。
「そもそも、何を以って独裁なのですか?」
苦し紛れの逆質問も、瞬時に制される。
「そんなこと聞いてないってば!」

別の回でも―。
「朝日新聞と読売新聞、どっちが正しい?」
「その答えを見極める意味でも、もう少し説明して頂きたいです」
「そんなの屁理屈だよ!」
はい、確かに…。

ボールを打ち返す快音の代わりに、
テニスコートを右往左往する足音が響く。
マイクを手にする前に、散らばったボール拾いも必要だ。

一方、文章について。
小田嶋さん曰く、「打ちたてのうどんは寝かせてから茹でる」。
原稿には、推敲。
時間の重しを乗せることで、言葉は整理され、思いは行間に滲む。
うどんを青果に置き換えれば、
採れたての野菜スティックがマリネになるぐらいが、きっといい塩梅だ。

鮮やかなマリネを前に「いただきます」と言いたいところだが、
置かれているのは箸ではなく、ペンとマイクだ。

話す、書く、奏でる、描く。
伝える手立ては、多々あれど―。

この仕事に就いて、12年目。
マイクで話す内容を、ペンで整えたくて、
どちらも拾おうと、両腕をめいっぱい伸ばしている。
届く場所まで、ぐぐぐ、と。



「お疲れ様でした!」
収録後、小田嶋さんの新刊と共に。



(5月26日配信)   

   
 
    
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