小学校は、地元の公立に通った。
東京都大田区。
急な坂を下りきった場所に、校舎がこぢんまりと建っている。
あじさい屋敷、鳩小屋、都営住宅―。
かつての住まいを拠点に、通学路を順にたどる。
同級生の自宅の前には、子ども用の自転車が止められていた。
当時、クラスで飼っていためだかの尾びれを定規で切った彼と、
大喧嘩をしたことを思い出す。
5年1組。担任の先生は、教育実習を終えたばかりの女性だった。
「理科の実験だ」と主張する彼に対して、
「(怖い先生がいる)2組だったら、そんなことしなかったでしょ」
確か、そのようなことを言って、彼よりも先生を傷つけてしまった。
坂を下ると、ようやく校舎が見えてくる。
「校庭開放」の札がぶら下がった校門を潜ると、声をかけられた。
「何組の生徒さんですか?」
振り返ると、野球チームのパーカを羽織った母親が、
メガホンを差し出した。
「あ、いえ…」
慌ててお辞儀して、校庭の隅にある鉄棒を横切った。
先生、お元気ですか。
生徒ではなく、保護者の年齢になりました。
相変わらず、逆上がりは出来ないままですが。
|