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8月11日 北京五輪をより楽しむために Part3
〜室伏広治 ハンマー投げにかけて〜

スポーツが人間にとってかけがえのない行為であることをこの取材で知ることができました。アテネの金メダリスト室伏広治選手が最後に語ってくれた言葉は、私が30年間追い求めてきたスポーツそのものでした。今日ご紹介するのは8月1日、報道ステーションで放送されたものです。
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4年前のアテネオリンピック。
「金メダルを求めてアーチは伸びた伸びた・・・いったいった・・・」
日本人で初めて陸上競技ハンマー投げで金メダルを獲得した室伏広治選手。

アテネで金メダルを獲った日本選手の写真を見せると、室伏選手の顔を指差す人の多いこと。
「ハンマー投げの人ね」
「ムロフシだろう」知っているよ。
「彼はとっても強いんだ」
「ム・ロ・フ・シ」

海外でも室伏選手はいまやよく知られた存在です。



宮嶋:「33歳になった室伏選手は4年前とは違う投げ方で北京オリンピックに臨もうとしています。日本のスポーツの常識を破るゴールドメダリストの姿を追いかけました。

父はアジアの鉄人と呼ばれ、41歳まで現役を続けた名選手。妹もハンマーと円盤をこなす投擲一家です。さらに大きな手が自慢の88歳になるおばあちゃんはかつて100mの選手だったそうで、室伏選手の中には、アスリートのDNAが脈々と受け継がれているのです。




父は4度のオリンピック日本代表。息子は3度のオリンピック代表。
親子二代でそのとりことなっているハンマー投げ。

ワイヤーの先についた鉄の塊を遠くに飛ばすことで競い合うこの競技は、陸上競技の中でも際立って難しい技術を要求されるものだといいます。


室伏広治:「非常に難しい競技じゃないでしょうかね、道具でしかも、手元にないですから離れたところのものを扱う難しさはありますよね。手で、手先でボールの様に手に持っているわけではないので。」

 

4回転をする足元は、かかと、側面、指先と使い分けてまるでダンスのステップのようです。ハンマーは徐々に加速されていき、最後、手にかかる力は400キロにもなります。

 

室伏広治:「あんまり握りこんだりはしないですね。指で引っ掛けるかんじで。本当は一番スピードが乗っている途中ですっぽ抜ける感じで抜けていくほうがいいんですよ。」

なんと室伏さんは指の力だけで、一枚50キロあるウェイトを持ち上げてしまうのです。

室伏広治:「ただのみせものですよ」

 

パワーとスプリント力がハンマーを支えます。


 

ハンマーの飛距離はどうすれば伸びるのでしょうか。
ハンマーを速く回転させればさせるほど、遠くへ飛ばすことができます。
秒速30m、時速108キロでハンマーが手から離れていけば、
85mを記録することができるのです。



アテネオリンピックまで、室伏選手は自らが速くターンを回ることでハンマーのスピードを出していました。しかし、2005年、がらりと考え方を変えることになります。

室伏広治:「高速で回っているターンだったので、限界があると思ったんですよ。試合も連戦、年間10何試合、毎年ずっとしてきて、そういった疲労が出てきたと。トレーニングも一度見直すときがなければ次のオリンピックに向けていくことは難しいんじゃないかなっと。」


アテネの投げ方では限界がある。
そう考え、新しいスタイルを模索し始めた室伏選手の口から出てきたのは意外な言葉でした。

室伏広治:「速く自分が回ればいいだけではないんです、ハンマー投げは。くるくる速く回れば飛ぶわけじゃないので。」

 

こうした考え方にいたったのは自らの研究の成果でした。
独自の投擲理論を確立するために大学院で研究をすすめ、専門誌に論文を発表。去年9月には「ハンマー頭部の加速についてのバイオメカニクス的考察」というテーマで博士号を取得したのです。現役金メダリストの博士号取得は、日本で初めてのことです。



妹の由佳さんはこう語ります
由佳:「常に机に向かってて、練習して帰ってきてそんな状態なんで、休めているのかななんてちょっと心配しましたけれど」

 

金メダリストにご褒美として与えられる博士号ではないことは、論文担当の桜井伸二教授がきっぱりと断言してくれました。
桜井教授:「大学院に入ってからはじめた仕事ですから約10年間、ひとつの仕事にずっと打ち込んできたということになります。」

 

去年12月には暮れには室伏博士の特別講義がイギリスのラフバラ大学でも行われました。もちろん英語での授業です。


 

博士論文では、ハンマーのスピードを測定できるセンサーシステムとその実験結果が述べられています。

センサーをハンマーのワイヤーにつけることで、ハンマーの回るスピードなどを数値として測定することができるものです。

  


今までは自分の感覚でしかわからなかったことを数値化したのです。
北京オリンピックに向けても、実際にこのセンサーをつかって2カ月おきに測定が行われました。中京大学と国立スポーツ科学センター(JISS)の協力を得ての実験です。

 

室伏広治:「ハンマー投げで測定をするというのが今までなかったと思うので 」
宮嶋:  「世界的にもこういうことをやっている国はない?」
室伏広治:「選手が直接こういうことをやっているのはないですよね。」

 

室伏選手のこうした研究心は、実は、父親譲りのものでした。
中京大の室伏重信教授の研究室には、かつて最新鋭の8ミリフィルムで撮影した自分のフォームの映像が、大切に保存されていました。




室伏教授は、おもむろに本を二冊取り出し、それを目の前に持って話し始めました。
室伏重信:「ずっとこうやりながら見るの。脚だけこうやって見るの。一日6時間とかね、8時間とか、10時間とか。ひとつのところ比較をしてみていくとわかってくるんですね。」

 


父の映像による研究を受け継ぐように、今、息子は、映像ではわからない部分、
運動を力学的な数値に置き換えることで研究をしています。

  
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