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9月8日 「シンクロってすごい」と題して、
武田美保さんをお招きして行われた体験授業の内容をおつたえします!

8月16日、テレビ朝日のイベント会場UMUで行われた「スペクタクル体験授業」の模様をお伝えしましょう。
2001年福岡で行われた世界水泳でシンクロナイズドスイミング・デュエットで史上初金メダリストとなった武田美保さんがゲストです。
「シンクロってすごい」と題して、世界水泳篠原弘光プロデューサーと一緒に競技の裏話を伺いました。

 

シンクロってすごいをテーマに「スペクタクル授業」が・・・


宮嶋:武田選手をご紹介いたしましょう。オリンピックで5つのメダル。世界選手権で6つ。あわせて11個のメダルはシンクロ選手として個人で持っている最多メダル数です。そして、パントマイムの演技で立花美哉さんとともに獲得したあの2001年の世界水泳での金メダルは、シンクロの日本選手としては初めての快挙でした。
(拍手)
改めてご自分のパントマイムの演技をご覧になっていかがですか?

 
武田:なかなかいけてますねえ。(笑)
 
篠原:とても印象に残る演技でしたね。僕はこの頃シンクロのことよくわからなかったんですけれど、日本の選手が世界の頂点に立つというのはすごいと本当に思ったのを覚えています。
 
宮嶋:武田さんはシンクロの常識を変えた選手でもあります。それまでは21歳や22歳ぐらいで引退するのが常識でしたが、武田さんは・・・
 
武田:28歳まで続けました。もう、オフィシャルにしていることなので、隠すこともないと思いますけれど、ほんとによく続けましたね。(笑い)
自分ではあまり意識していなかったんですが、一般の方から言われて、ああそんなに長くやっていたんだなと改めて思いました。

 

シンクロの裏話がでるわでるわ・・


宮嶋:さあ、それでは今日の本題に入りましょう。
最初のテーマは「シンクロ選手は3分以上息を止められる」です。
武田さん、これまでの最高は?

 

武田:最高は3分45秒。私もがんばったんですけれど、私の先輩で4分半という方もいます。
 

宮嶋:4分半ですか・・・・絶句!
シンクロ選手が息を止めているというのはどういう状態なんですか?

 

武田:潜水徐脈という言葉があるんですが、人間は水に潜ったとき、酸素をゆっくりと使うために心拍数を減らして、長時間潜ることを可能にしているんですね。潜ってしばらくするとすごい苦しくなるんですけれど、それを超えると脈拍がどんどん落ちていくんです。しーんとした状態で、それを超えると危険なところまで言ってしまうのかもしれませんけれど・・そして水面に顔を上げた瞬間に、ヒュウッって息を吸うんです。
 
宮嶋:笑顔を見せながら??
 
武田:はい、それが大変なんです。去年アテネ五輪の演技とかはほんとうに苦しくて、一番最初の部分は25秒間もぐりっぱなしで脚技の部分だったんで、自ら顔を出したときに過呼吸状態でした。水の中に潜ってずっと無酸素でやっていて、急に息を吸ったので、その瞬間に目の前が真っ白になってボーっとしているんですけれど、幸い練習の成果で手足は動いているという状態で演技をしました。
 
宮嶋:じゃあほとんど無意識で手足だけ動いている?
 
武田:はい。そうですね。(笑い)
 
宮嶋:さて、それでは会場の皆様にも水中にいるシンクロ選手の気分を少しだけ味わっていただこうということで、先ほど会場に入られるときにお渡ししたノーズクリップをだしていただけますか?はい。これはどうやってつけるんでしょうか。
 
武田:針金を私たちは前に向けてわっかの部分が下になるように鼻につけます。
 
篠原:これ鼻が結構痛いですね。
 
宮嶋:どう?皆さん・・・苦しいですか?
 
ノーズクリップをつけてみる会場のお客様
僕もやってみよう

宮嶋:それではせっかくですから、会場の皆さんと一緒にどのくらい息を止めていられるか、やってみましょう。いいですか?皆さん右手をあげてくださ〜い。もう我慢できないと思ったら、右手を下げて、呼吸をしてくださいね。
それでは、大きく息をすってくださいねえ・・・はい、スタート!

はあい、30秒経過、・・・・
ノーズクリップをしながらしゃべるのは結構苦しいですねえ。
1分経過・・・ああギブアップの人が多いですね。
ああ、いま全員ギブアップになりました。

 
篠原:宮嶋さん、今何分ですか?
 
宮嶋:ああっ、いけない!
ストップウォッチ押さなくちゃ。(笑い)
ええっと・・・1分20秒です。
 
武田:この二倍以上長く止めているんですよ。
 
宮嶋:本当に尊敬してしまいます。会場の皆さんお疲れ様でした。
 

息はどこまで止められるか

ノーズクリップ初体験・苦しい

宮嶋:ところでこのノーズクリップが演技中に外れてしまうことはないんですか。
 
武田:ノーズクリップに触らなければ大丈夫なんですけれど、結構、水の中で接触が多いんですよね。足でけってしまうようなこともあるんです。チームでは隊形移動があるんで、そうするとガア〜ンってあたることもあって、そういうときに外れちゃうんですよ。私も一度ぶつけられて、そのときは本当に大変でした。
 
宮嶋:そういう時はどうするんですか。
 
武田:とりあえず耐えるしかないんですけれど、耐えて、水の中で、鼻から息を抜くと水が入ってこないので少し楽なんですけれど、今の演技では肺に一杯の空気を入れておかないと浮力がきかなくなって水位が下がってしまうんですね。だから息を吐くこともできず本当につらいですね。
 
宮嶋:選手たちは水着の太腿のところにもう一つのノーズクリップを入れていますよね。あれをつけることはできないのでしょうか?
 
武田:ああ、最近のプログラムではスピードが速いので、それをやっていると間に合わないんですね。ですからそれは気休めですね。
 

宮嶋、武田さん、篠原P


宮嶋:世界で一人だけ、この鼻栓をしないで演技ができる人がいます。フランスのビルジニ・デデューという選手ですが、鼻栓をしないとどういう状態になるんでしょうか。
 
武田:鼻栓をしないと、もうプールで泳がれた方はわかると思うんですけれど、とにかく頭が痛いです。息が苦しくてもう、本当につらいです。
でも、彼女の場合、生まれてまもなくプールで泳いでたらしいんですね。お母さんの胎内にいるときに赤ちゃんは羊水の中で浮いていますよね。彼女にはそのときの記憶、感覚が残っているんじゃないかと言っていました。
 
宮嶋:(子供たちに向かって)みんなお母さんのおなかの中にいたときには水の中に浮いていたんですよ。このフランスのビルジニ・デデューさんにはその時の記憶が残っているんじゃないかということですね。デデュー選手は鼻栓をしないことがすごいだけじゃなくて、その演技もすばらしい。篠原さんは初めてデデューの演技を見たときのことをおぼえていますか?
 
篠原:僕は2002年にスイスのチューリッヒで行われたワールドカップで初めてデデューの演技を見たんですが、僕のようなシンクロに対しては素人の人間が見ても、鳥肌が立ったのを覚えています。本当にあれは芸術ですね。それ以来彼女の大ファンです。
 
武田:この夏のモントリオールの世界水泳で現地でデデューの演技を見たんですけれど、もう別世界という感じですね。その能力の高さは尊敬に値しますね。
彼女はトレーニングを本当にしっかりする選手なんですね。

 
宮嶋:今年の夏はマリリン・モンローの世界をピンクの水着で演じてくれました。
 

世界水泳でのデデュー選手


さて、それでは次の質問です。
「シンクロの練習って一日10時間するの?」
武田さん実際にはどのくらい練習をされていたんでしょうか。
 
武田:オリンピックの前には10時間以上の練習は毎日していました。水の中で10時間以上。そのほかにも陸上でのトレーニングがありました。
 
篠原:それも足のつかないプールですよね。
 
武田:オリンピックや世界選手権のルールでは最低20メートル×30メートルの水域を必要とし、その内の12メートル×12メートルが水深3メートル以上なければいけないんです。残りの水域は2.5メートル以上。けっこう深いプールですね。
 
宮嶋:ずっとその中で・・
 
武田:ずっと、です。練習もそこでしますし、先生の注意も立ち泳ぎをしながら、そこにいたまま聞いています。水の中で移動するときは、水泳をやった方はわかると思いますが、クロールキックだとか、ブレストキックだとか、いろんなキックをかわるがわるして移動していくんです。
 
宮嶋:そして陸の上での練習もありますね。
 
武田:陸の上で曲に合わせて行う「ランドドリル」というものがあります。手で脚の形をしてあわせるものなんです。くるくる回るのは、倒立姿勢で脚のスピンというのがありますがそれを表しています。カウントで回転数をそろえて面でお互いが合わせる。自分でカウントしていくんですね。
 
宮嶋:一日10時間以上毎日練習をするとどんな感じですか。
 
武田:まさにバタンキューですね。練習終わって部屋に帰って、そのままシャワーを浴びて熟睡ですね。
 

京都弁の武田さんの話が炸裂


宮嶋:選手にとって大変なのは練習だけではありません。食事も大仕事です。
これはアテネ五輪の前の合宿のときの様子ですが、すごかったですね。パスタがあります、チャーハンがあります。サラダに、おすしに、それからハンバーグがあって、このとき、武田さんハンバーグを二つ召し上がっていましたよね。
 
武田:はい・・笑い・・・一日最低でも4000カロリー以上食べなくてはいけないんですよ。目標は5000カロリーでした。(笑い)
 
宮嶋:普通の成人男性の平均カロリーが2500といわれています。女性が2000カロリーでいいといわれているので、普通の男性の2倍を食べなければならない。つらくないですか。
 
武田:もう表情見ていただければわかると思うんですけれど、いやいや食べていますよね。すごくおいしいんですよ。たくさん食べられるように、気を使ってくださって、味付けもいいんですけれど、さすがにここまでになると、つらいですね。
今大皿にエビフライが乗っていますよね。さあっと数えて、「一人10本たべるのがノルマね」って言われるんですよ。それでも残っている場合は「あと2、3本ずついっとこか」とか・・・・

 
宮嶋:大変な量ですよ。
 
武田:でもこれだけ食べないと、練習がハードなんで、体重がドンドン落ちていってしまうんですよ。毎日10時間の練習ですからね。
 
宮嶋:今は?
 
武田:激減しましたね。快適な食生活を送っています。(笑い)好きなときに好きな量を食べられることの幸せを味わっています。
 

ええっ、そんなに食べるの


宮嶋:はい、それでは次の御題です。「世界初の試み」がこの夏の世界水泳で行われましたねえ、篠原さん。
 
篠原:はい、コンピュータグラフィックで、演技の技を表しました。
最初に、武田さんにシンクロの技をしていただいて、それを撮影して、さらにテレビ朝日の技術を結集してコンピューターグラフィックスにしたものです。
スタジオで合成をして、視聴者に皆さんにご覧いただくという世界で初の試みでした。シンクロってこういう規定の技があるんだということがわかって、視聴者のみなさんからもかなり好評でした。武田さんのおかげです。
 
武田:シンクロにはテクニカルルーティーンとフリールーティンの二種類があるんですが、テクニカルルーティーンには8つの規定要素が入っているんですね。
さまざまな名前がついて規定要素があります。
 
宮嶋:「エッグビーター」という技があるんですが、これは卵の泡だて器という意味ですね。脚を泡だて器のように激しく回す規定要素です。
そして、「ベントンニー」というのは「ベント」曲げる「ニー」ひざということでひざを曲げる技のことですね。
 
武田:エッグビーターは大変なんですよ。脚を水の下で大きくかき回すように動かして、できるだけ上半身を高く出しながら早く進まなくてはいけないんですね。
顔は笑顔なんですが、腿の筋肉は一番大きな筋肉ですよね、だから、酸素がたくさん使われてしまうんですよ。だから息を吸っても2分の一しか入ってこない感じですね。
 
宮嶋:隠れた大変さがあるわけですね。なんだか簡単な技だと思っていました。ごめんなさい。
 


宮嶋:さあ、それでは次の御題です。「美しくなるための苦労とは」。
お母様方はこちらが一番興味あるところかもしれません。
あの笑顔も練習の賜物ですか?
 
武田:シンクロの代名詞のような笑顔ですけれど、笑顔もちゃんと練習していたんです。これは振り付けの先生に教えていただいたものなんですね。同じようにキューって笑っているように見えたかもしれないんですけれど、曲によっていろいろ変えていたんですよ。笑顔にも3種類あるんですよ。
 
宮嶋:3種類ですか。
 
武田:口の形が「イー」で笑うのと、「エー」で笑うのと「アー」で笑うのがあるんですね。「アー」はあごを落とさないで、口を立てにあけて笑うんですよ。
目も違うんですよ。近くに審判がいるときは「点数頂戴!」という感じで、相手の目を見るんですけれど、そのときは眉と目の間が近くなるように。それから遠くの審判にアピールするときは、目と眉の間を開いて、口は「アー」です。
 
宮嶋:じゃあ、会場の皆さんやってみましょうか。はい・・・「アー」
 
武田:普通の生活でも、やっぱり笑顔でいると精神的にも前向きになりますよね。笑顔でいると、感情も変わってきますね。
私は長くシンクロ選手をしてきたので、笑顔になると、筋肉が反応するんですね。今陸に上がって、いろんな方に、「武田さんと一緒にいると楽しい」って言っていただくんですね。表情豊かというのは感情表現というのにつながっていきますから、ずっと大切にしていきたいと思っています。
 
宮嶋:今日会場におこしの皆様もぜひおうちでぜひやってみてくださいませ。
美しさということで、ここに武田さんに水着を持ってきていただきました。本当にきれい!

 

水着を持ってきてくださった武田さん


武田:
これはすべて私の選手時代にソロで着ていたものです。これが一番古くて、すべて、こういう風にしたいというイメージを書いて、作ってくださる方がいるんですが、その上に、こういうスパンコールを縫い付けていく、それをするのが、母親なんです。

 
宮嶋:このすべてのスパンコールすべてを・・・いろんな形のスパンコールがありますね、この水着だけで5種類以上のものが使われていますよ。
 
武田:はい、同じ大きさのものばかりを使ってしまうと、出来上がりがベターとなってしまうんですね。遠くから見ても立体的に見えたほうが華やかなのでこういう風にいろんなものを使っていくんです。
 
宮嶋:スパンコールは結構重いと聞いたことがあるんですが・・
 
武田:そうなんです。石の一つ一つが結構重いんですよ。糸でつながっているものを一個ずつ、わざわざはずして一針、一針縫っていくんですよ。集中していると3日ぐらい徹夜で作業をしてくれますね。この水着だけでなく、それに合わせる髪飾りハットの部分も作るんですね。
 
宮嶋:立花美哉さんのお母様も同様に作業をしてくださるんだそうですけれど、聞いたところでは、少しでも重さを軽くするために、スパンコールをはさみで一ミリぐらい一回り小さくしていくということを聞いたことがありますね。ばあっと飛び上がるときに少しでも娘の負担を軽くしたいという親心からだったと聞きましたけれど、本当に親の愛情があっての賜物なんですね。
 
武田:そうですね、そうしておられました。親の愛情ですね。
私の母親も自分が作った水着は思い入れがあるんで、もちろん演技は見てくれているんですけれど、「ああ、あの背中すてき、やっぱりすごい」と自画自賛しているんですよ。

 
宮嶋:これも作品ですからね。それが世界中に流れるとなると、お母様もやりがいありますよね。
 
武田:チーム用の水着は同じように作らなければならないじゃないですか。去年の場合はうちの母親が見本として作るんですね。それをカラーコピーでとって、使ったスパンコールも、全部その分を切るんですね。それだけではわからないんで、関西の人がたとえば4人いたら、できたものを関東の人に送って、関東の人はそれを見ながら作業をするんです。でもこうやっても間違える方もいらして・・・
 
宮嶋:よかった、シンクロをする娘がいなくて。(笑い)
本当にスポーツ選手を支えるのは家族ですね。
 
水着製作・母の思いを話す武田さん

宮嶋:今回選手を離れて、モントリオールの世界水泳を見にいらして、お感じになったことはありますか。
 
武田:選手のときに見えていた風景とまったく違ったものが見えてきましたね。自分には新鮮に感じましたね。今まで気づかなかったことが面白い、シンクロって楽しいってはまってしまいました。
 
宮嶋:来年9月に日本でシンクロのワールドカップが横浜で行われるんですね。
テレビも面白いですが、生で会場で見る面白さというのもあるんじゃないですか。

 
武田:ぜんぜん違いますね。来てくださった私の友人がいて、最後だから見に来てって言って頼んだんですが、そのときびっくりしていたのが、息づかいなんですね。プールに来てはーはーすごい息づかいが聞こえたって驚いていました。
 
宮嶋:来年横浜で、ワールドカップが行われます。詳しい日程は?
 
篠原:9月の14、15、16、17日ですね。
 
宮嶋:ぜひ、選手の息づかいを聞きにきてください。
 
武田:はい、ぜひ、聞いてください。
 
宮嶋:では最後に皆さんと一緒に写真を撮影してお別れしましょう。武田さんありがとうございました。
 

笑いっぱなしの45分

写真:最後はノーズクリップをつけてハイポーズ

   
 
    
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