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7月15日 新しい関係を求めて


モントリオールでは世界水泳が17日から始まります。また熱い日々が続きますよ。
さあ、お待たせいたしました。シンクロファンの方々への情報です。
今回の注目はなんと言っても日本のナショナルメンバーが新しくなって初めて迎える大きな国際試合。どんな演技でどう評価されるかという点です。
チームも見所いっぱいですが、特に私が興味を持ったのがデュエットの二人です。
今までのデュエットとはかなり違うアプローチで練習に取り組んでおりました。

なお、これは報道ステーションで7月15日に放送されたものをまとめたものです。

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スタート前にしっかりと手を握り合う姿が印象的な日本を代表する新しいデュエットが
デビューしました。

 

新しい関係を求めて

宮嶋:「アテネオリンピックの後、日本を代表する選手たちががらりと変わりました。
時代とともに選手たちの気質も考え方も変わってきているようです。」

今シーズンからデュエットの日本代表となったのは23歳の鈴木絵美子さんと22歳の
原田早穂さんです。鈴木さんは去年大学を卒業したばかり、原田さんは現在日本大学4年生です。

ここ数年 ジュニアチームやナショナルチームの一員として一緒に演技をすることが多かっただけに、とても気心が知れた二人です。

鈴木絵美子:「結構、仲のいいデュエットというか」
原田早穂: 「本当に仲も良いし、凄くプラス思考だと思うんですね。二人そろって」

 

鈴木絵美子さん

 

原田早穂さん

若さと勢いを武器にする二人。
世界ナンバーワンのロシアに対抗するために、これまでになく速い動きを追求していきます。
細かい振り付けの角度とスピードを二人でぴったりあわせていくのは至難の業です。
鈴木絵美子:「頭がパンクしそうでした」
原田早穂: 「同じ8個間で、ゆっくりだと4つのふりじゃないですか、でも早いと8個あって、注意が倍に増えるというか」
鈴木絵美子:「許容範囲を超えているの、頭の」

ハードな練習も仲のよさで切り抜けてきました。

それは過去、日本を代表した歴代のデュエットの関係とは違うものでした。
去年アテネオリンピックを最後に引退した立花武田のデュエットの場合はどうだったのでしょう。

いまは、シンクロ教室で子供たちを教えている立花さんに聞いてみました。

なみはやドームシンクロ教室で子どもたちを教える立花美哉さん

立花美哉:「お互い良いライバルだったんですよ。彼女のできることは自分ができなかったし、私ができることは彼女が不得意としていたことだったので、それを盗んでやろうと、そういう気持ちでした。だからこうやって8年もやってこれたんだと思います。」

一方の武田さんも同じように思っていました。
武田美保:「できるなら抜かしたいというのがありました。その点、絶対にデュエットはなあなあにならないパートナーでした。」

パートナーとの関係について、武田さんが興味深い話をしてくれました。

武田美保:「シンクロって相反する競技だと思うんですよ。一番になりたい、もっと自分をアピールして勝ちたい、そういう気持ちが強くなければうまくなっていったり上にあがっていったりできないじゃないですか。でも人とあわせなければシンクロじゃないから、凄く反対のことを同じ競技の中で追い求めている。」

フランスのデデューとともに即興演技を演じ、DVD収録

現役時代にはやりたくても出来なかったものがたくさんあったと武田さんは言います。
今、自分だけの表現を求めて、新たなパフォーマンスに挑戦する日々を送っています。

いいライバル関係を保ちながらのデュエット。
過去、オリンピックのデュエット代表には必ずそうした緊張関係がありました。

 

ソウル五輪代表 小谷実可子

 

ソウル五輪代表 田中京

1988年ソウルオリンピック代表の小谷実可子・田中京のふたりの練習はまさにしのぎを削りあうものでした。
1992年バルセロナオリンピックでは、試合当日まで奥野・高山・小谷の誰がデュエットに選ばれるかわからないという熾烈なものでした。

1992バルセロナ五輪 奥野、高山のデュエット

そして、彼女たちの心の中にある思いはみな同じでした。

立花美哉:「誰よりも自分に厳しくなって、誰よりも自分を追い込んで闘っていきたいという思いですね。」

今回の新しいデュエット、鈴木絵美子さんと原田早穂さんには、
過去の日本代表デュエットのようなライバルの緊張関係といったものは
ほとんど感じられません。

 

鈴木絵美子さん

 

原田早穂さん

鈴木絵美子:「私は人を蹴落としてまで自分がうまくなりたいと思わないんです。沙穂ちゃんどこがわからないの、もっと沙穂ちゃんこういうふうにやったらやりやすいよっていう風に、私もそういう風に教わりたいし、うまくなってうまくなって良いデュエットみたいにしていきたいとちょっと考えているので。自分だけうまくなろうって言う考えは全くないです。」

原田早穂:「凄い二人で一つのものを作り上げていこうという団結心があったので凄くやりやすい」

仲が良いといっても脚の形もタイプも違う二人。
鈴木絵美子さんはイメージどおりに脚を動かせる天才型。
一方の原田早穂さんは努力でそれっを補っていくタイプです。

 

鈴木絵美子さんは天才型

 

原田早穂さんは努力型z

最近の二人の練習方法では、天才的な感覚を持つ鈴木さんがさっとお手本を見せ、その形を原田さんが真似をして覚えるというパターンです。

原田早穂:「教えてもらってばかりなんですけれど、やりやすいやり方を絵美ちゃんはやってくれるので、私は毎日発見というか。」

鈴木絵美子さんが手本を見せ、原田早穂さんがそれを覚えていく

この40年、日本のシンクロ界を牽引してきた日本水泳連盟シンクロ委員長の金子正子さんはこう分析します。

金子正子さん

「自分もミスしないかわりに相手も許せないというようなお互いが緊張感でピンとはりつめてやっていくのも厳しさの極限の一つだとは思うんです。ただこれからの選手たちってなかなか今、割とかわいがられて恵まれた子供がこういうスポーツをするというようなゆとりの中で育っていますから」

互いに競い合う厳しさよりも、ともに教えあい助け合っていくことで成長していこうとするデュエットがここに誕生したのです。
果たして、この新しい関係で、どこまで世界に通じるのでしょうか。

 

テクニカルルーティーンの曲、
天野紀子さん演奏の収録に立ち会:。

 

曲にあわせて手を動かす

6月7日、
日本代表デュエットとしての最初の海外遠征は6月のローマオープンでした。
しっかりと握手を交わして演技に向う二人。

 

オリンピックの翌年は世界の勢力地図が変わる年とも言われています。
新しい日本のデュエットは審判たちの目にどのように映るのでしょうか。

トップの実力を持つロシアが出場していないこの大会で
シンクロ関係者の注目を最も集めたのがこの二人でした。

テクニカルルーティーンでは出来たばかりの新しい曲で演じるのが精一杯という状態ではありましたが、元気のよさと勢いだけはありました。

 

審判たちの採点は9.2から9.8までと開きました。

テクニカルルーティーン 審判たちの採点は以下の通り。

得点 EX 9.2 9.7 9.2 9.5 9.5
     OI  9.6 9.8  9.3 9.7 9.4


日本は総合で、アテネオリンピック4位だったスペインのメングアルとティラドスについで2位となりました。相手はベテランの二人とはいえスペインに負けたのは正直痛いところです。しかし、若い二人だけにこれからの伸びしろも充分にあるはずです。

それにしても演技前のあの握手のときに二人はどんなことを話しているのでしょう。

「苦しいのはお互い苦しいので、その確認というか。」
「やらないと不安というか。合体しない、というか・・・」

 

助け合うことで自分たちの可能性を広げようとする二人。
そこには未知の魅力が詰まっています。
時代とともに、選手たちのスポーツへのかかわり方は確実に変わってきているようです。

カメラ:綱川健司
編集:久富浩一
選曲:伊藤大輔
MA:濱田豊
ディレクター:宮嶋泰子


<編集後記>

取材をしながら、正直驚きました。時代は確実に変わってきているちいうのが正直な感想でした。
スポーツは楽しむものですが、競技スポーツともなると、そうも言ってばかりもいられません。チャンピオンを目指そうとすればつらい事がたくさん出てきます。得るものもあれば失うものもあります。身体や心を蝕まれる選手たちも出てきます。
自分がチャンピオンになるためには、人よりも上に立つことがもとめられます。自分を誰よりも厳しく律しながら「スポーツ道」を求めていくというのが日本のこれまでのほとんどの選手たちの姿だったように思います。
「私は人を蹴落としてまで自分だけ上手くなりたいとは思わないです。」と断言してしまう鈴木絵美子選手の潔さ。きっと彼女の競技人生のなかでいろいろ感じたり思うところがあったのでしょう。
私自身、長い間競技スポーツの選手たちを取材しながら、思うところが多くあっただけに、もやもやとしていたものがすうっと晴れたような一瞬でした。

これから彼女たちが、世界を意識し、日本を意識し、どう変わっていくのか、それともずっと変わらずにこのままいけるのか、しっかりと見守っていきたいと思います。

宮嶋泰子

   
 
    
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