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8月23日 波瀾万丈 駆け抜けた8年

 
さあ、アテネ五輪。
宮嶋企画でこの4年間、何度もお伝えしてきたのがシンクロナイズドスイミングです。
井村コーチは6回目の五輪。その6回すべてを現場で見てきた私としては、全力で応援していきたいと思います。今回はデュエットのお話。8月6日に報道ステーションで放送したものの概略をここでお伝えいたしましょう。


 

2000 シドニー五輪 銀メダル
2001 世界水泳福岡 金メダル
2002 チューリッヒW杯 銀メダル
2003 世界水泳バルセロナ 銀メダル


これまで、立花美哉選手と武田美保選手はシンクロナイズドスイミングの日本代表デュエットとして、私たちの記憶に残る様々な演技で世界の頂点を目指して闘って来ました。
そして、アテネはふたりにとって集大成の大会になるはずです。
 

「立花選手と武田選手のデュエットは今年で8年目を迎えます。この間本当にいろいろありました。そして今シーズンもオリンピック直前まで試行錯誤の挑戦が続いています。」

波瀾万丈 駆け抜けた8年

去年12月、大阪府門真市にあるなみはやドームで、オリンピックに向けての作品作りが本格的に始まりました。

井村:「いよいよ始まりました。」
宮嶋:「フリーは曲も決めて?」
井村:「日本調やりたいで、日本人にはわかるだけれど、向こうの人にはむずかしいかなって」
 

テーマ曲は、歌舞伎の勧進帳をベースに作ったもので、この日、曲を作った大沢みずほさんもプールにやってきました。

どんな動きができるかを探っていく選手たち。
一方、コーチと作曲家は曲をどう変えていけばいい演技に結びつくかを考えます。

大沢:「義経弁慶って言ってもわからないですよね。」
井村:「わからないわからない」
 

武田:「私たちの中では歌舞伎の振りを真似ているだけなので」
立花:「足技としてはすごい考えやすくて、つけやすいんで」

とりあえず4月にアテネで行われるオリンピック予選まではこの曲でやってみようというになりました。

2月のグアムで本格的に動きがつけられていきます。 
日本調のリズムに、立花武田のふたりが得意とする足技が次々と入れられていきます。

武田:「ものすごいハードです。」
立花:「ここから乳酸でてますね。毛穴から」
 

一方、ロシアでは、伸び盛りの21歳、エルマコワとダビドワが今年も国内チャンピオンとなっていました。
ロシア選手権の様子をじっとVTRで見る3人。
「緩急うまくなっているね。」
ロシアの若手も着実に成長しているようです。

4月中旬にアテネで行われたオリンピック予選、ロシアのエルマコワとダビドワはドンキホーテの曲に乗って、軽快な演技を展開。
10点を含む高い得点を獲得しました。

TM 9.9 9.9 9.9 10.0 9.9
AI 9.9 9.8 9.9 9.9 10.0

 

そして日本。
果たして観客やジャッジに歌舞伎のテーマが受け入れられるのでしょうか。
日本調の音楽に合わせて、繰り出される足技の連続。

歌舞伎独特の掛け声が悲鳴に聞こえたと言うジャッジもいるなど、日本のテーマが理解されないまま、得点は伸びず、ロシアに水をあけられてしまいます。

TM 9.7 9.8 9.7 9.8 9.8
AI 9.8 9.7 9.8 9.8 9.8
 

試合後、記者会見で井村コーチの口から出たのは・・・・
「初めて試合に出してみて、曲の音も含めてちょっと考えてみようかなと。」

練習を始めてから4ヶ月。
日本デュエットの演技は振り出しに戻ってしまいました。

前代未聞 シーズン半ばで曲のイメージも題名も大幅に変更されました。
「前の形を知っている人があの曲を聞くと「すごく大手術したね」って言われる。」
 

立花武田のふたりが吹き込んだ笑い声の入った軽快な音楽で、かわいらしい日本人形をイメージする演技に変えられていきます。

オリンピックまで残された時間は僅か3ヶ月。

「無駄なことは一秒もしない。」

急ピッチで振り付けが行われていきます。
 

宮嶋:「皆に受けそうですね、これ」
井村:「あの子達らしいでしょう。」
武田:「私すごく気に入っています。まさかロックになるとはと言う感じで。」
立花:「のりがよくなっているので、それにのれるように。」
井村:「原点に返って見終わった後にハッピーにならねば。」
 

見るものをぐっと引き込んだパントマイム、体をしならせて演じたライオン、筋肉を伸びやかに使った風とバイオリンなど、これまで出会ってきた演技の全ての要素がアテネ用の新しいプログラムに織り込まれているのです。
 

立花・武田のふたりがコンビを組んでから8年目で迎えるアテネオリンピック。
ふたりは1997年のナショナルチーム選考会の技術力のテストで1位と2位になったことからデュエットのパートナーとなりました。
当時、シンクロ委員会の方針で、技術力の高いふたりを組ませるのが世界への近道であると考えられたからです。
 

立花21歳、武田19歳。しかし、ふたりは何から何まで正反対でした。
 

井村コーチでさえもこう話していたほどです。
「ふたりとも私のクラブの子ですけれども、体質があまりに違うので私は組ませてなかったんです。」

立花選手は、日本のナンバーワン・ソリストとして長い手足を自在に操り、柔らかなうねるような動きを得意としています。
立花選手より身長が5センチ低い武田選手は、体が固く、直線的な動きを得意としています。
 
  武田選手の脚

脚の形も全く違います。
立花選手の反った脚と、武田選手の四角い脚

シンクロ関係者から批判の矢面に立たされるのはいつも2番手の武田選手でした。
 

「組み始めとか、私でなくてもよいと言うことを言われて、私も組ませてくださいっていって組んだんじゃないよってここまででかかったこともあるんですけど、」
 

ロシアでは、別々のクラブに所属していた16歳のダビドワとエルマコワを、脚の形が同じで、実力も近いという理由から、デュエットを組ませるようになっていました。

おととし、チューリッヒで行われたワールドカップで、そのロシアの若手に立花・武田のデュエットがはじめて敗れ、リベンジを誓いアテネを目指すことを表明した時にも、武田選手の体の硬さを理由に、コンビを解消させるべきだと言うプランが浮上。
 

ただ一人守ってくれたのは井村コーチでした。
「涙が出るくらいうれしい言葉だったんですけれど、私たちがオリンピックまで続けるという決断を下した時に、美哉と武と心中するつもりでやるという言葉をかけてくださったんです。何があっても、選考会で審判が私はもう要らないと判断を下したとしても私は最後まであんたがやる限りコーチをすると言う言葉をかけていただいたんですよ。」

ともに歩んできた運命共同体としての意識がこの頃から3人の間にはしっかり芽生え始めたようです。
 

誰からも文句を言わせない技術をつけること。武田選手は自らに課したテーマを一つ一つクリアーし、今日と言う日をつかんだのです。

「私じゃないとだめって言われるパートナーになるためには何ができるんだ、それからずっとはじまって8年になってしまいました。」

今、ふたりはお互いの長所で相手の足りないところを補い合う魅力的なパートナーになってきたのです。
 

立花:「デュエットに関しては、精神的にも技術的にも一番いいときだと思うので、すごく充実した毎日を過ごせていると思います。」

武田:「今まで身に付けてきた全てのものを出したいオリンピックですね。」

井村:「やっぱり立花武田の集大成だから私の集大成ですね。あの選手たちが輝いて、かっこよく素敵に見えてあの選手たちらしい演技をさせたい。それが私の全て今の。」


カメラ:佐藤俊輔、藤田定則、佐々木玲子
音声:矢島崇貴
編集:松本良雄
選曲:伊藤大輔
MA:浜田豊
ディレクター:宮嶋泰子



編集後記

いろいろあった8年間ですが、アテネを前に、二人がこんなことを言っていました。

立花:「私自身が世界と戦おうとすると武の力がないと世界を狙うことが出来ないなと言う思いです。」
武田:「金メダルを狙いに行くのはあいては美哉さん以外絶対無理と断言できます。」

本当に心からそう思っているのでしょう。
武田選手が心の奥にしまっておいた気持ちを、そっと出して見せてくれたあの言葉。

「私じゃないとだめって言われるパートナーになるためには何ができるんだ、それからずっとはじまって8年になってしまいました。」

インタビューをしながら涙がこぼれるのをとめることができませんでした。

悔いのない演技をアテネのプールで期待しましょう。
宮嶋泰子

   
 
    
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