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12月1日 民謡とスポーツはおまかせあれ

 
富士急行スケート部の女子選手といえば、古くは橋本聖子選手に始まり、岡崎朋美選手に、三宮恵利子選手など、目元ぱっちりのアイドル系が多いのですが、その中にあって、一人異彩を放つのがジャパニーズドール・こけし顔の田畑真紀選手です。

どんなに苦しくても笑顔笑顔。

本当に、こけしは真紀ちゃんをモデルに作られたのではと、取材中に何度思ったことでしょう。その真紀ちゃん、マイクを握れば、民謡では右に出るものがいないというほど上手なんだそうですよ。私は実際に聞いたことがないんですけれど、長田監督がそう言っていました。

私が橋本聖子さんの取材をしている頃から、真紀ちゃんは一人でいつも黙々と練習をしていました。
岡崎選手や、三宮選手が短距離の500mや1000mを専門にしているのに対して、田畑選手は、1500mや3000mの中距離が専門です。
中距離というのは、スピードと持久力の両方を兼ね備えていなくてはならないので、とっても辛い種目なんですね。

ローラースケートで基礎を作る。

夏の陸上トレーニングも息をぜいぜいふいごのようにさせながら、激しい階段をかけ上っています。
ローラースケートでも、目が回るほどぐるぐると何周もまわって、トレーニングをしています。
短距離選手が練習を終えてもまだやっているんですよね。
でも練習が終わると真紀ちゃんの目はいつも三日月さんにしてニコニコ笑っているんですよ。とにかく体も心もタフな選手です。

98年の長野五輪の代表に選ばれながら、出場できなかった苦い思い出を持っています。
五輪に向けて調子を上げてきた矢先に、練習中に他の選手と接触し転倒。左足のくるぶしを骨折してしまったのです。
日本記録保持者として、日本で行われる長野オリンピックにかけていた田畑選手の悔しさ、無念さは、いかばかりだったでしょうか。
日頃から彼女の練習を見ていたので、そのニュースを聞いたときは私も胸を締め付けられるような思いがしたものです。

あれから4年。真紀ちゃんは一回りも二回りも大きく逞しくなっていました。

11月3日と4日に長野のエムウエーブで行われたスピードスケートの種目別選手権で、田畑選手は1000mと1500m更には3000mでも優勝し、その圧倒的な強さを見せつけたのです。そして、そのあと欧州で行われたワールドカップでも3000メートル、5000メートル、さらに1500メートルと続けて3位の表彰台に乗りました。

とにかくすべりが違います。
脚の力が、しっかり氷に伝わっているのです。
専修大学の前島教授は、真紀ちゃんのスケーティングを見ながら、
「あれほど低い姿勢で、ひざをしっかり曲げてすべれる選手は世界を探してもいないですよ。トレースと脚の出方をしっかり見ていると、外国選手も真似できぬほどの凄い技術を持っている。みごとなすべりです。」と絶賛します。

ほっと一息。

本人はスケーティングについて、こんな風に話しています。
「長野五輪の直前から、スラップスケートに合う新しいスケーティングにしました。最初その基礎を作るのは本当に大変だったけれど、そのポイントがわかってからは毎年、そのスケーティングに合う筋肉もついてきて、どんどん良くなってきているんです。今は次に何をすればいいかがわかって、とても楽になっています。」

この独自のスケーティングを作り上げるために、田畑選手は超スローモーションの動きですべる練習を繰り返してきたのです。
「長く長く、一歩をすべるんです。右足の次に左足が出るのを待って待って、我慢するんですね。普通だったら8歩から10歩で進む100メートルを6歩ぐらいで、スーっと倒れる寸前まで片足でスケートにのっているんです。コーナリングなんて、普通は6歩か7歩のところを、4歩ですべるんですよ。」

真紀スマイル!

我慢、我慢のゆっくりとしたすべりで、体重をスケートにしっかり乗せて、力が氷まで伝わる練習をくりかえしてきた真紀ちゃん。
その成果はしっかりと数字になって現れてきました。

女子の中距離は東欧の選手が圧倒的な強さを誇っているのだけれど、日本のこけしパワーを世界に見せて欲しいな。
ね、真紀ちゃん。

この冬、思いっきり応援したい選手です。

   
 
    
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