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11月1日 新会長ロゲ氏とともに、オリンピックはどこへ行く?

 
ソルトレークシティー冬季五輪まで100日を切りました。
早いですね。つい先頃までシドニーのお話をしていたように思うのに、あっという間に次の五輪がやってきてしまいます。

スペイン出身のサマランチ会長が1980年にその職について以来、オリンピックはこの20年間、ただひたすら肥える道を突き進んできました。
収入的にも肥え、競技種目も多くなり、オリンピックは巨大なイベントへと成長してきたのです。
身動きできないほど肥えたオリンピックはその内部で動脈硬化を起こし、様々な問題を起こすようになりました。

オリンピック招致にからむIOC(国際オリンピック委員会)委員のスキャンダル。
メダルに目がくらんだ選手たちのドーピング問題。
ただひたすら増加しつづける競技種目数。

クーベルタン男爵の発案で誕生したオリンピックが、一世紀を過ぎ、こうした数々の問題を抱えるようになってしまったのです。
果たしてオリンピックは21世紀に新しいムーブメントとして人類の発展に寄与できるのでしょうか。

新会長の話を聞きたいと集まった人たち

この大きな課題を背負わされて、今年、新たにIOCの会長に就任したのが、ベルギーの整形外科医、ジャック・ロゲ氏です。
ロゲ氏はヨットの選手として、メキシコ、ミュンヘン、モントリオールのオリンピックに出場してきました。

10月25日、そのロゲ会長が来日し、我々報道陣の前で、これからのオリンピックがどのように進んでいくのか、その方向性を明らかにしてくれました。
今日はそのお話を皆さんにお伝えしましょう。

その1:
多くの競技の中で、オリンピックはこれからもNO.1の大会でありつづけたい。
縮小すべきところは縮小していくが、質の高さは保っていく。
そのために以下のようなことが考えられる。

ベルギーのヨット選手だったロゲ会長

これまで通り、4年に一度の価値を大切にし、みんなが同じ都市に集まることの意義を大切にしたい。
即ち、分散大会はなしということ。

大会開催期間は16日以内とする。

ゼッケンにPRを載せたりする広告は採用しない。

縮小に関しては競技種目数そのものを減らすことはしない。
シドニーでの種目数は300。アテネ大会で女子レスリング5階級が採用されるが、その分男子のレスリングを整理するので、総種目数は300のままになる。
北京大会も、種目総数は300のままとなる。

大会毎の予算を縮小していくようにする。ITを統合し、生産性を高めることで効率化を図る。
開催地の建設費を削減する。

大会毎に用意されるアクレディテーションカード(大会関係者が利用する身分証明カード)の数を整理して少なくする。
アクレディテーションカードは92年のバルセロナでは13万人分だったのに、シドニーでは19万5千に膨れ上がった。
ただし、メディアのアクレディテーションカードの数は減らさない。

その2:
スポーツへの信頼性を高める。

1964年の東京五輪のときからオリンピックはドーピングに対して厳しく対処してきた。
最近ではWADA(Worldantidopingassociation)を設立させた。
ソルトレークシティー五輪では、より厳しく臨むために、大会に先立って、持久系の競技種目の全選手を対象にドーピングテストを行う。
(これまでは事前テストは何人かを選んで行っていたにすぎない。)

その3:
若年層のスポーツ離れを防ぐ

特に先進国では、コンピュータの発達に伴い、若年層のスポーツ離れが進んでいる。
若い人たちがスポーツを楽しめるように、スポーツの楽しさを伝えていく使命を負っている。

その4:
選手間に広がるギャップを解消していく。

プロ化したある特定の選手たちと、その他の選手たちの間に格差が生まれつつある。
こうした格差を是正していく。
本来スポーツは多くのボランティア精神によって成り立っているものであるので、そのあたりの理解を深めていく。
各競技団体と選手の間に広がる誤解や溝も埋めていく必要があるだろう。

その5:
教育的活動

動き、参加し、スポーツをしたいという気持ちを伝えていくことは大切なことだ。
スポーツは単なる競争ではない。
そこには人間が社会活動をしていく上での重要な教育的要素も含まれている。
異なる人種や層と交わることで学んでいくものの大切さ、健康の重要性を知ってもらう。

ロゲ会長はこうした話をした後に、今みんなが最も関心を持っている問題、ソルトレークシティー五輪の開催について、次のように述べました。

IOCは、ロゲ会長の下、
変わることができるのか。

「オリンピックを開催することについては、15名のIOC理事の満場一致で決まりました。
アスリートコミッションでも満場一致の結果が出ています。
セキュリティーは組織委員会が予算13億ドルのうち、2億7千万ドルをさいて質の高いものを実施することになっています。
古代ギリシアの五輪がそうであったように、今回も、大会期間中は停戦を希望しています。
オリンピックを実施することそのものが、現状に対しての最良の答えとなるのです。」

ううん、なるほど。
オリンピックを実施することそのものが、戦争に対する、一つの大きな意思表示となるというのですね。
でも、テロの格好の標的となることもたしかですよね。
2月がこわいですねえ。くわばらクワバラ。

そうそう、女子種目に対しても、興味あるコメントをしてくれたので、ここに書き加えておきましょう。

「1980年のモスクワ大会の時には女子は全体の8%でした。それが今では38%まで増えたのです。
目標は50%です。各国オリンピック委員会に対しても、2004年までに女性理事を20%まで増やすように要請しています。
現在IOCはアフガニスタンのオリンピック委員会を承認していません。なぜならばアフガニスタンでは女性のスポーツ参加を認めていないからです。」

もう、ビックリ!
アフガニスタンのことは私も知りませんでした。
スポーツはある意味で、西洋的なものを代表する活動です。
タリバンをはじめとするイスラム社会の考え方と対立する面がこんなところにもあらわれているなんて驚きでした。

59歳のロゲ会長は実にさわやかな印象を振りまいて、講演を終えました。
トップが交代したことで、中身がどこまで変われるのかわかりませんが、少なくともラテンマフィアといわれたサマランチ時代の拝金主義的スポーツ大会というイメージは変わりそうです。
まずはイメージを大切に・・・

あれ?
どこかの国の総理大臣みたいですね!
本当に中身も変わってくれることを切に切に願っておりますわ!

 
スポーツ古今東西
 
モスクワ大会に始まり、ロス、ソウル、さらには冬の大会も経験し、シドニー大会がなんとオリンピック取材10回目になる宮嶋泰子アナウンサー。取材ではその選手の持っている「根」を掘り起こそうと歳甲斐もなく?大声を張り上げて走り回り、スポーツを縦から見たり横から見たりと大忙し!他とは一味違うスポーツ企画をこのコーナーでぜひお楽しみください。
 
 
    
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