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10月1日 オリンピックとは一味違った魅力


世界の耳目がアフガニスタンに集中しています。
いまから12年前にも我々はアフガニスタンの状況をじっと見つめていたときがありました。
1979年12月、ロシアがアフガニスタンに侵攻。
これを機に、西側諸国が翌年のモスクワ五輪のボイコットを表明したのです。
実はこのモスクワ五輪は、テレビ朝日が独占放送権を得ている大会だったのです。
日本で初の民放の独占中継となるモスクワ五輪は片肺に終わりました。
閉会式をモスクワで見ながら、世界の人が同じ考えで一堂に会することの難しさを実感したことを思い出します。

政治とスポーツは違うと言っても、オリンピックが大きくなればなるほど、政治に振りまわされることが多くなってきます。
このモスクワオリンピックの反省から二つの大会が誕生しました。
ひとつは、米ソの選手を中心に他の国も参加して、純粋に競技を競いあおうというグッドウィルゲームス大会。
もうひとつが、この夏に秋田で行われたワールドゲームズです。
この二つの大会とも4年に1度行われ、今年がその年にあたりました。

ワールドゲームズはオリンピックの競技以外のスポーツで行われるものです。
前回このコラムでもご紹介したとおり、遊びのスピリッツに富んでいる新しいスポー
ツが盛りだくさんの大会です。
新しい競技場を作らない。
地元住民とのふれあいを大切にする。
選手たちは国の代表ではなく、その競技団体を代表する。
こうしたルールを作って、スポーツの新たなありかたを求めていく大会でもあります。

今回初めてこのワールドゲームズを取材して、いろいろなことを思い出しました。
二十数年間のスポーツ取材経験の中の様々なエポックを・・・・・。

オリンピックの競技が見なれてしまったものが多いのに対して、ワールドゲームで行われる競技が観客にとって目新しいものが多いためでしょうか、会場のあちこちから感嘆のため息がもれていました。

例えば二人で行うトランポリン。高く高く軽がると宙に舞っていく選手たちを見ながら、「ほおお、見事だあ!」とあちらこちらから声が上がり、その声につられて私も思わず身を乗り出してしまったほどです。

スポーツアクロ体操はもうこの世のものとは思えぬ「凄さ」。
取材であることも忘れてただただ見入ってしまいました。
そうそう、そういえばこの興奮・・・どこかで体験したような・・・そうだ!あれだ。

子供の頃からお転婆で、休み時間となれば鉄棒にしがみついていた私は、人の身体がきびきびと動くのを見るのが大好きで、テレビで体操競技の中継が行われる日にはかじりついて見ていたものです。
 
いつの頃からか、高校生の頃からでしょうか、あまりそうした機会もなくなってしまいましたが・・・。

久しぶりに口あんぐりで見入ったのは上海で見た雑技団の演技でした。最前列に陣取って、骨がなくなってしまったかのような女性の動きを呆けたように見つめておりました。

そう、あのときの感覚と同じもの。どうして人間がこんなことができるんだ!と言う単純な驚き、そして憧れ。
その感覚がスポーツアクロを見ていて蘇ってきたのです。

上海雑技団の伝統があるからでしょうか、さすがに中国チームはスピードとパワーが違います。
圧倒される動きに、会場も妙な高揚感に包まれました。

バスに揺られて30分。ローラースケートホッケーが行われている会場では選手たちの激しいぶつかり合いが行われていました。

そうそう、もうあれは二十年以上前のことです。東京の品川で世界ローラースケートフィギュア選手権が開かれ、そのメイン実況をしたことを思い出しました。
4つのホイールの前にストッパーがついている重そうなスケート靴で、ダブルアクセル、ループを軽々とする選手たちにびっくりしたものです。

そのほとんどが、ウェイトレスやアルバイトの仕事で生活費を稼ぎながら、夕方になると練習をするという選手たちで、取材をしながら、「テネシー・ウイリアムスの戯曲の主人公たちのようだ」と思ったものです。
限られた時間しか練習できないけれど、だからこそ、その時間を心から楽しんでいた選手たち。
オリンピックの選手たちのようにフルタイムアスリートとはまた違うスポーツマンたちの姿。その懸命な姿がほほえましく、思わず拍手をしてしまいます。

ワールドゲームズで行われる競技の団体は、チャンスさえあればオリンピック種目として認められたいと、強く望んでいるようです。

確かにオリンピック種目になれば世界中に放送され、認知され、競技人口も増加するでしょう。
しかし現在の肥大化しているオリンピックでは、いかに競技を縮小させていくかと言う点に力点が置かれているだけに、これから新たに五輪種目となっていくことは至難の技ではありません。

競技団体にはそれぞれの思惑があるのでしょうが、こうした選手と観客が一体となるアットホームな雰囲気の中で競技ができることもとても大切なことなのでしょう。ひとつの「スポーツの原点の姿」と思わずにはいられませんでした。

 
スポーツ古今東西
 
モスクワ大会に始まり、ロス、ソウル、さらには冬の大会も経験し、シドニー大会がなんとオリンピック取材10回目になる宮嶋泰子アナウンサー。取材ではその選手の持っている「根」を掘り起こそうと歳甲斐もなく?大声を張り上げて走り回り、スポーツを縦から見たり横から見たりと大忙し!他とは一味違うスポーツ企画をこのコーナーでぜひお楽しみください。
 
 
    
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