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9月12日 リディア・シモン その2 不屈の精神


標高2600メートルで練習

足にできたマメでシューズを血だらけにして走ったり、嘔吐や、急性盲腸炎にもかかわらず走り、上位入賞をしてきたシモンの強さ、肉体の痛みを克服してしまう精神的な強さとは一体どこから来るのでしょうか。

「私は子供の頃から、確かに我慢強かったです。向上心が強くて、勝つことが大好きでした。」
シモンが育ったのはルーマニア北部の貧しい地域です。父母は農業に従事し、リディアが長女で、その下に妹が3人、弟が一人の5人兄弟です。ルーマニアでは学校は、午前と午後に分かれていて、シモンは午前の授業を受けていました。


力強いキック

中学時代、学校が終わると走って家に帰り、家計を助けるために絨毯織りを手伝ったそうです。そして、この学校への行き帰りの走る姿を見初められて、陸上競技を始めたのです。

シモンの才能は貧しさの中から見いだされ、そして開花していきました。みんなが遊んでいる間も、絨毯を織って家計を助けてきたシモン。子供の頃からじっと我慢をして、こつこつと一つのことを成し遂げる根気は生活の中で培われてきたのです。
シモンは続けます。


コーチは夫のリビューさん

「私は意志がとても強いと自分でも思っています。マラソン選手はどの国の人でもみんな意志の強い人ばかりだと思います。しかし、その中でも、私は並外れて意志が強いのです。」

「レースでは自分自身との闘いです。自分と闘って勝たなければなりません。レースを走りながら、闘えば闘うほど、そこに勝利が見えてきます。」

シモンにとってマラソンレースは人との競争ではなく、自分自身との闘いなのです。

しかし、これだけ自分自身を追い込んでいく選手はどこかで、息抜きをしないと生きていくのがきっと辛いでしょうね。それをしてくれるのが、夫のリビューさんなのです。


コックさんより料理上手!?

ルーマニアというのはローマ人の国という意味で、東欧の中では珍しくラテン系に属す人々が暮らしています。リビューさんは典型的なルーマニアン。陽気で、冗談ばかり言って、回りの雰囲気をなごませます。シモンいわく、

「私が機嫌が悪かったり、疲れていたりすると、私を笑わせようとするんですよ。おかげでこんなに皺が増えちゃった。」

それまで、難しい顔をしてマラソンについて語っていたシモンが、リビューさんのことになるととたんに表情が変わり、目尻が下がってしまうのですから、こちらが面食らってしまいます。


今晩のメニューは何?

大学時代はバスケットボールの選手だったリビューさん。レストランでウエイターをしていたときに、そこに客として来たシモンと出会い、大恋愛。今から7年前に結婚したのだそうです。とにかく仲がよくて、暇さえあれば二人でいちゃいちゃしているのです。ああ、当てられっぱなし!

オリンピックを前にして、シモンは外食を一切しません。ドーピングに引っかかるような何かが、どこに入っているかわからないからです。ちょっとしたお菓子でも、全て原料がわかっている手作りのものだけを口にします。食事の担当はリビューさん。もともと食べることが大好きなだけに、その調理の手際の良さはプロ並みです。


練習環境も整ってきた

失礼、手際だけでなく、お味もそんじょそこらのレストランより上だとか。

ルーマニアでは野菜や肉をぐつぐつ煮込んだスープがよく食されるそうで、シモンの大好物も野菜と肉の臓物のスープ、チョルバデボルタです。
寸胴鍋にいっぱいの愛情スープが、シモンの強さの原動力。シドニー入りしてからも一軒家を借り切って、リビューさんのお手製料理で最後の調整に入るそうです。


母国から
トレーナーが派遣されている

 

苦節10年、長い間模索していたトレーニングの方法もようやくこの2,3年で確立されてきたというシモン。練習方法、練習環境、食事、全てが今望ましい状態に向かっているようです。目標はズバリ金メダルと言い切ります。

今年1月の大阪国際女子マラソンでシモンがマークした2時間22分54秒は、女子だけのレースで、ループコース(片道のワンウェイコースではないコース)で出された世界で最も速い記録とされています。


仲の良さに当てられぱなし

シモンは今や、足のマメや、嘔吐や盲腸を克服しながら走る忍耐のランナーとしてだけではなく、スピードランナーとして世界でもトップに入ってきたのです。どんなレースになっても対応できるシモンは日本選手にとって本当に恐い存在です。

意志の強さでシモンがどんなレースを見せるのか、とにかく楽しみです。

 
スポーツ古今東西
 
モスクワ大会に始まり、ロス、ソウル、さらには冬の大会も経験し、シドニー大会がなんとオリンピック取材10回目になる宮嶋泰子アナウンサー。取材ではその選手の持っている「根」を掘り起こそうと歳甲斐もなく?大声を張り上げて走り回り、スポーツを縦から見たり横から見たりと大忙し!他とは一味違うスポーツ企画をこのコーナーでぜひお楽しみください。
 
 
    
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