わずか2ヶ月半の突貫工事で、銀メダリストを作り上げた井村マジック。
これには世界のコーチたちも驚きの声を上げました。
フランスのチームコーチとして上海入りしていたかつてのシンクロ女王ビルジニ・デデューに聞いてみました。

デデュー：「井村さんは、きちんと同調させるためのテクニックをたくさん持っていますからね。」

井村マジック、その独特の指導方法とは、いったいどんなものなのでしょうか。

中国の新しいデュエットを教える井村さんの様子をじっと見ていた3人の日本人に聞いてみました。

１０年前、世界水泳福岡で井村コーチの元、世界一の座についた武田美保さんが注目したのは「技術の見せ方」でした。

「井村先生が見たというのが一目瞭然なのが、技術の高さですね、芯から体を使った脚の上げ方、ストレッチの利いた筋肉の伸ばしかた、まっすぐの中心軸を保った倒立姿勢とか。空間に一瞬シャッターチャンスがあるかのように止まれるんですよ。「うまい」と思わずうなってしまうような見せ方が独特だなと思いました。」

井村：「これぞテクニカルルーティーンみたいな、教科書みたいな技をさせてやろうと思って、それに徹しましたね。」

かつて井村さんと一緒にアテネオリンピック日本代表コーチとして活躍し、現在はイタリアで教えている友松由美子さん。

友松：「一人ひとりに、持っている脚の質が違うんですが、それぞれに与えるアドバイスが違うんですよね。」

井村：「その選手によって、仕上げ方違うんですよ、全部。100人の選手にぶつかったら、100通り覚えるの。」

井村マジック、二つ目は「相手によって変えるアドバイス」です。

スペインチームを世界の強豪に押し上げ、今シーズンから米国ナショナルチームヘッドコーチとなった藤木麻祐子さんは、アメリカと比較しながらこう話します。

藤木：「国によってはそれがはまるところとはまらないところがあるとおもうんですけれど・・井村先生のすごいところは、あきらめないし、選手が何を言おうと自分がここまで持っいくぜと思ったら、絶対そこまで持ってきはる。」

井村マジックその３はあきらめないこと

井村：「あなたの高さはここ。それが当たり前みたいに練習から言い続けた。」

スペインを破り、2位の座についた中国が次に目指すもの、それは、ロシアです。
いかにロシアに追いつき、追い越すか。

最強ロシアチームは、この15年間、負け知らずです。
ポクロフスカヤコーチのもと、追随を許さぬ、演技構成とテクニックを誇り、選手たちの運動量も半端ではありません。

片腕側転を2回連続で行うのは、177センチの長身を自在に操るロシアの女王イシェンコ。

デュエットでも、イシェンコは、まるで水の中の体操競技のように、後方宙返りを二回連続で行っていきます。

井村：「今回のロシアを見て思ったことは、体つきから新しいシンクロに行ってますね、新しいシンクロですよ、あれは。シンクロの技ができやすい筋肉をつけている。その一番象徴がイシェンコでしょう。あんな筋肉つけたら、シンクロの技やりやすいよねって。」

ますます進化するロシアのシンクロ。
これに追いつき、追い越すための作戦が果たして存在するのでしょうか。
実は、井村さんは、この夏の世界水泳で、すでに驚くべき手を打っていたのです。

井村：「むこうにイシェンコという女王がいるのであれば、こちらは顔になる、イシェンコよりレベルは下だけれど、たくさんいるよみたいな。4人そろったら、チームの半分が世界知っている選手じゃないですか。」

デュエットを二組作ったのは、中国チーム8人のうち４人がかなりの実力者であることを、審判に強烈にアピールするためだったのです。
勝負師井村雅代が、世界水泳を利用して立てた、ロンドン五輪に向けた大作戦でした。

「これから1年間かけてサプライズの演技を作ること。」

打倒ロシアの作戦は着々と進行しています。

「1位がいいね。やっぱり立花武田が1回、1位になったけれど、もう一度自分の手で、選手を一番のところに連れていってやりたいですね。」

編集後記

中国代表のヘッドコーチになった井村雅代さんを2007年から取材するようになりましたが、毎回、その視点の自由さと、世界を見据えた作戦には驚かされます。
この企画が放送された後、2011年12月には、北京五輪で一躍注目され、中国シンクロの顔になった双子の姉妹と、この世界水泳でデビューした大型デュエットを戦わせて、ロンドン五輪の代表権を競わせました。結果は、技術力に勝る大型デュエットが勝ち、ロンドンのデュエット代表の切符を手にしました。ロンドンでロシアに戦いを挑むための厳しいまでの選択。しかし、この二組の競り合いで、双子も力をつけたのです。さまざまな仕掛けをしながら、総合力をぐうんとあげていく井村マジック。
そこには闘将の姿がありました。
ロンドン、楽しみです。