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6月14日 南アフリカ通信B ヨハネスブルク続編


今回はヨハネスブルクの治安について感じたことを記します。
テレビ朝日の取材チームには、セキュリティーと呼ばれる人がついてくれています。
私たちのチームについてくれているのは「カール」。
元警察官で、ヨハネスブルクの街を知りつくしています。
彼の左手には警察官時代、銃撃され、弾丸が貫通した生々しい傷跡がくっきりと残っています。
普段は陽気ですが、危険なエリアが近づくと、我々にそのつど、具体的なアドバイスをくれます。
基本的に、取材の時にはチャーターした車で移動し、カールは助手席に座ります。
我々は「カール」の判断を優先し、トラブルを未然に防ぐことを心掛けています。
そして、カールは黒人です。
人類に対する罪と言われた人種隔離政策を取っていた南アフリカでは、「白人」であることと、「黒人」であることの意味合いが異なります。
少数派の白人が多数派の黒人を支配していた負の歴史が、今現在、「白人」を苦しめているのです。
つまり、「白人セキュリティー」と「白人運転手」は襲われる可能性が高くなるのです。


助手席に黒人のセキュリティー、運転も黒人ドライバー


前回もお伝えしましたが、「ヨハネスブルク」はエリアによって、その「空気」「雰囲気」が変わります。
警察官が多く配置され、高級住宅街に隣接するエリアは比較的「安全」とされ、実際に食事や、買出しもしましたが、W杯を楽しむ人々の熱気はひしひしと感じました。
特に「ネルソンマンデラスクエア」という高級ショッピングモールでは、世界各国のサポーターが集まり、
オープンテラスのレストランで「W杯」という祝祭を大いに楽しんでいます。

ただ、今日、オランダ代表の取材に行った、犯罪多発地域であるダウンタウンは、「空気」「雰囲気」が明らかに変わります。
正直、車の中からデジカメで撮影するのもためらうほどの「圧迫感」、「見られている」という雰囲気でした。
路地で、屈強な男たちがたむろしている様は、「世界で最も危険な都市の一つ」であることを五感で感じることができました。そのエリアはいわゆる貧困地域というよりかは、ナイジェリアやジンバブエといった、政情が不安定な近隣諸国からきた無法者達が跋扈する地域とのことでしたが、その言葉通り、体格の良い、見るからに腕っ節が強そうな若者が路上に溢れていました。
今回の取材に向かう車中の中で、カールから与えられた指示は下記の通りです。
@ 集団で動き、決して単独行動はしない。
A カールが危険と判断した場合は車に乗り、すぐその場から離れる
B 基本的に自由に撮影して良いが、見ていて危ないと判断したら、すぐ撮影を止めて欲しい。

「そこまでの指示が出る場所ってどんな所なんだよ!!」
目的地に着くまでは、いつも通りみんなで軽口を叩きながら、和気藹々とした雰囲気でした。
ところが、車窓から見る景色が一気に変わってくると、沈黙が支配するようになりました。
建物の窓という窓には鉄格子がはめられており、路上には暗い顔をした人々がただ、立ちすくんでいます。
所々から奇声が聞こえ、足早で通り過ぎていく人達。
そこは、まぎれもなく、悪名高い「ヨハネスブルク」でした。
では、なぜ、そこまで治安の悪い地域で「オランダ代表」は交流を図ったのか?
その答えは、「ヨハン・クライフ」にありました。


伝説のヨハンクライフ


ヨハン・クライフといえば、言わずとしれたオランダが生んだスーパースターです。
かっての名選手クライフは、今は慈善団体を運営しており、南アフリカの貧困地域に彼の名を記したフットサルコートを作り、そこでフットサル教室を営んでいます。


フットサルコートで記念撮影するオランダ代表


今回は、まさに、その「ヨハン・クライフ」が作った貧困地域のフットサルコートにオランダ代表が登場したのでした。
しかも、今回のイベントにはクライフ自身も加わり、さらには80年代の名選手「フリット」も参加していました。


あのフリットを直撃


南アフリカの最も凶悪で、最も危険な地域で子供達に「サッカー」を伝えようとする「オランダ代表」。
これらの動きは、オランダ代表が黒人と白人の内紛により、チームが一つになれないという悪しき伝統からの脱却と、欧州で蠢く人種差別に対して、オランダ代表が身をもって行動することを示したのだと感じました。


それにしても、ヨハネスブルクのダウンタウンは非常に怖かったです。
日本のサポーターの皆さんは絶対に近寄らない方が良いと思います、それだけは自信を持って言えます。


ダウンタウンで怯えながら撮影した一枚
 
 
    
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