11.13大阪ドーム。
猪木プロデュースの闘魂祭りで、私は貴重な体験をしました。
その体験をここに記します。
それは、第6試合「天龍源一郎対柴田勝頼」終了後に起きました。
試合は54歳の天龍が親子ほど歳の離れた柴田に対し、真っ向勝負を展開。
猪木と馬場から唯一ピンフォールを奪ったことのある天龍が、衰え知らずの強さを存分に見せつける素晴らしい試合でした。
天龍が柴田をグロッキー状態にさせて、フォール勝ちを収め、勝ち名乗りを受けた瞬間、私と天龍の目が合いました。
天龍が怒りの表情で放送席の私に向かって、何かを言っているのが確認できました。
しかし、私は天龍が何を言っているのか、何を怒っているのか、瞬時に理解することはできませんでした。
私は、勝者天龍の壮絶な闘いを称える実況を続けました。
そして、天龍がリングを降りた時、「事件」は起きました。
突然、天龍が私に突進してきました。
リングサイドの付き人から缶ビールを受け取った天龍は、その缶ビールを振りながら、放送席に怒りの表情のまま向かってきました。
その瞬間、私は試合前の担当ディレクターとの会話を思い出しました。
担当D |
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「吉野、昨日の記者会見で天龍が今日は反則しないって言ってたぞ。」 |
吉野 |
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「え、本当ですか?」 |
担当D |
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「中丸が天龍にファンは反則決着を望んでいないし、納得していないと思うが?って質問したんだ。」
「そうしたら天龍が、俺のファンは納得している。お前は柴田のファンだろ!!」
「明日は反則はしない。だけど、ビール瓶持って放送席いくから覚悟しとけよ!!って言っていたよ。」 |
天龍と柴田は今まで2度対戦し、いずれも天龍の反則負け。
遺恨決着を果たすため組まれた今回のカードだけに、中丸アナウンサーが天龍にしつこく質問するのも当然のこと。
しかし、その時の私の心中は「あ〜、中丸さん、本当に勘弁してくださいよ!!」
試合前の会話を思い出した私は、一瞬にして恐怖に包まれました。
「あ、まずい!!俺、やられるかもしれない。」
気が付けば、天龍はすぐ目の前。
次の瞬間、私は頭からビールをかけられ、ずぶ濡れになっていました。
そして、最後に空になったビール缶を投げつけられ、天龍は退場していきました。
私はずぶ濡れになりながら、一瞬、悩みました。
観客と視聴者の大多数は、昨日の中丸アナと天龍の一連のやりとりを知らない。
試合は終了しており、昨日からの流れを説明する時間もない。
しかし、この天龍の行動を短い時間で納得のいく実況をしなければいけない。
私は追い込まれました。
そして、私はこう言いました。
吉野 |
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「猪木プロデゥースの闘魂祭り、天龍なりの祝い酒か!!」
「このビール、気持ちいいじゃないですか!!」
「こんな素晴らしい闘いを見せてくれるなら、甘んじてこのビール受け止めます!!」 |
正直、ヤケクソでした。
そして、私はずぶ濡れのまま、その後の試合も実況を続けました。
試合後、天龍にインタビューした古澤アナの話によると、
天龍は「中丸アナを探したけど見当たらなかったので、実況しているやつを襲撃しただけ。」
と話していたそうです。
私の「ずぶ濡れビール事件」はオンエアでは一瞬だけしか放送されませんでしたので、「週刊ゴング」の吉川編集長にその瞬間の写真を提供して頂きました。
(吉川さん、ありがとうございます。)
写真の私の表情を見ると、動揺し、パニック状態に陥っているのが良くわかります。
天龍源一郎は本当に、本当に恐かったのです。
この写真は家宝にさせて頂きます。
そして、プロレス界の人間国宝、天龍源一郎にビールをかけられた逸話は末代まで語り
ついでいこうと考えています。 |