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10月23日   ワールドプロレスリング実況三銃士の闘魂コラム#20
〜10・9両国忘れらない光景〜


10・9両国、どうしても忘れることのできない光景がありました。

メインのIWGPタイトルマッチ、「藤田和之 対 佐々木健介」
試合時間わずか2分29秒。
佐々木健介に対し、バックからスリーパーにいった藤田和之が胴締めの体制で
寝転び、そのまま藤田の背中がマットにつき、カウントスリー。
まさかの結末。

試合後、不可解な試合内容に納得のいかない表情で佐々木健介がインタビューに答えていた。
そこに、佐々木健介の妻であり、マネジメントも担当する北斗晶さんが突如登場した。
次男の誠之介君を抱えながら、涙面で、
「健介、帰るよ!!なめるんじゃねー!!」
「ふざけんな!!」
「ふざけんな!!」
IWGPのトロフィーを蹴り倒し、新日本に対する怒りを露わにしていた。
「佐々木健介」を妻として、マネージャーとして支えてきた北斗晶さん。
藤田戦直前のインタビューでは、こんなことを話してくれていた。
「佐々木健介が死ぬ時は、北斗晶が死ぬ時。」
「佐々木健介が倒れるときは、私も倒れることになる。」
「正直、二人の子供の母親として、夫には無事でいて欲しいと思う。私も昔、リングで首の骨を折って死にかけたし、プロレスは命のやり取りだから。」
「ただ、それでは佐々木家は食べていけない。佐々木健介が止まるときは、佐々木家が食べられなくなるとき。だから、心を鬼にして、夫をリングに送り出すようにしている。」
私はインタビューをしながら、「フリーランス佐々木健介」の悲壮なる決意と、健介ファミリーの絆の強さを感じていた。

そして、10.9両国。
IWGP奪取、しかし、あまりに悲しい結末。
試合中、北斗晶さんは本部席のすぐ隣で、4歳になった健之介君と1歳7ヶ月の誠之介君を両脇に置いて声援を送っていた。
しかし、佐々木健介にとってあまりに惨い結末に怒りが爆発した。
「フリーだからといってなめるんじゃねえ!!」

新日本を飛び出し、WJを解雇され、一度は引退を決意した佐々木健介。
家族を養うため、プライドを投げ捨て、捨て身の闘いを続ける佐々木健介。
そして、それを支える北斗晶。
両国国技館の通路で子供をあやしながら、佐々木健介が控室から出てくるのを待つ北斗晶。
それを取り巻くマスコミ。
でも、誰一人として、その光景を写真に収めることはできていなかった。
カメラを向けることができない、人間の尊厳、シャッターを押せない、悲壮感を伴った北斗晶の凄みがそこにはあった。
幼子を抱え、理不尽な仕打ちにあい悔し涙に咽ぶ北斗晶を私は忘れない。

 
 
    
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