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身長
177cm
出身地
埼玉県さいたま市
出身校
県立浦和高校→
早稲田大学
入社年月日
1992年4月1日
星座
天秤座

2020/11/19 SDGs、気候変動と再生可能エネルギー

 国連の持続可能な開発目標、SDGs(エス・ディー・ジーズ)が注目を集めています。SDGsは2015年の国連サミットで採択された、2030年までに持続可能な世界を作ろうという国際目標で、「貧困なくそう」、「飢餓をゼロに」など17の具体的な目標が設定されています。

 最近では17色に彩られたSDGsバッヂを付けている人を街でよく見かけますよね。実は、私も時々付けています。

 このSDGsの中で、今、喫緊の課題とされているのが、目標13の「気候変動に具体的な対策を」です。

 私は、これまで毎年のように豪雨災害や台風の取材を続けてきました。各地の被災地を歩く中で、一昨年の西日本豪雨や去年の台風15号と19号など、年々、自然災害が激しくなってきているのではないかと肌で感じています。今年も7月に九州などで豪雨災害があり甚大な被害が出てしまいました。被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
 2018年の西日本豪雨と台風21号による経済損失額は約2.5兆円、2019年の台風15号と19号による経済損失額は約2.7兆円と、世界の自然災害の損失額上位に、2年続けて日本の被害が入りました。また、気象庁の統計を見ると、恐怖感を覚えるという80ミリ以上の猛烈な雨の降る回数は、40年ほど前の約1.7倍に増えています。
 日本の平均気温はこの100年で1.24度、日本近海の平均海面水温は1.14度の割合で上昇しました。気温が1度上昇すると大気中の水蒸気量は7%増加するとされています。温暖化に伴う長期的な水蒸気量の増加が、極端な大雨の一因になっているのではないかと、専門家は指摘しているのです。

 こうした災害の被害を少しでも減らすために、有効な対策はないのだろうかという思いから、温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーを利用し、持続可能な社会作りに取り組んでいる地域を取材。今年2月に、拙著『「再エネ大国 日本」への挑戦』(SDGs時代の環境問題最前線)を上梓しました。

 再生可能エネルギーを広めることは、SDGsの目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」につながります。

 この本の出版から半年余り、今、社会全体で大きな変革が始まろうとしています。

 米国では、大統領選でバイデン氏が勝利を確実にしました。バイデン氏は地球温暖化対策の国際的な枠組み『パリ協定』への復帰や、2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロ、再生可能エネルギーなどクリーンエネルギー分野に2兆ドルもの公共投資を行うことなどを公約にしています。バイデン政権が始動すれば、米国の環境・エネルギー政策が180度の大転換を始めることになります。
 世界最大の温室効果ガス排出国の中国も、9月、2060年までの排出実質ゼロを宣言しました。
 日本でも、10月、菅総理が所信表明演説で、2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロ、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言し、成長戦略として、再生可能エネルギーを最大限導入することなどを打ち出しました。
 その後、韓国も2050年までの実質ゼロ宣言を行い、欧州から始まった脱炭素化の流れは、あっという間に世界120以上の国と地域に広がりました。

 世界の脱炭素化の潮流に乗った日本政府の決断ですが、日本の電源構成に占める再生可能エネルギーの割合は約17%(2018年度)と、再エネ比率が30%以上を占める欧州主要国、特に40%を超えたドイツからは大きく遅れをとっています。日本が2050年の脱炭素化を実現するには、2030年に再エネ比率を22~24%にしようという現在の目標を、大幅に上積みしなければなりません。今、大胆なエネルギーシフトが求められているのです。

 実は日本は、「再エネ大国」になれる可能性を秘めています。太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスという自然資源が豊かな日本には、全電力需要の2.2倍もの再エネのポテンシャルがあり(環境白書2020)、その多くは、人口減少で疲弊する地方に存在するとされています。このうち、実際に使用されているのはごくわずかで、ほとんどは地方を中心に眠っているのです。
 こうした地方に眠る再エネ資源を有効に活かせば、地方が都市部へのエネルギー供給地として活性化される可能性があります。
 例えば、これからの再エネの切り札とされる洋上風力発電では、東北地方の日本海側など風況の良い地方の海が有望とされ、洋上風力を、今後10年で原発10基分、20年で原発30基分以上に相当する規模で導入しようという、官民が連携した新たな動きが始まっています。洋上風力は扱う部品数が多く、関連する産業のすそ野が広いことから、各地方に新たな雇用を生むなどの経済効果も期待されています。

 化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトが大きく前進すれば、東京一極集中という日本の社会構造にも変化が起こる可能性も考えられます。これまでの大規模な火力発電所を中心とした集中型エネルギーから、各地に存在する再エネ中心の分散型エネルギーへのシフトが進めば、人とお金の流れに変化が起き、東京から地方へ人口の分散が始まる可能性が出てきます。

 奇しくも、今、気候変動と共に私たち人類が直面するもう一つの危機、新型コロナウィルスへの対策によって、集中から分散へのシフトが進もうとしています。ネット環境の進化もあり、会社に行かずに自宅で出来る仕事が増え、テレワークが浸透しつつあります。都心の狭いマンションから郊外の一軒家に移住する動きや、本社機能を地方に移す企業も現れ始めました。実際に、今年4月から半年間の東京都の人口は、転出が転入を上回り減少に転じています。

 さらに今、コロナの影響で、温暖化対策のカギを握るCO2の排出量にも大きな変化が生じています。
 温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」では、産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えることを目標にしています。去年、国連環境計画(UNEP)は、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えるには、今後10年間、毎年、温室効果ガス排出量を世界全体で7.6%ずつ削減させる必要があると指摘していました。これは、相当に厳しい数字で、実現不可能ではないかともいわれていました。
 ところが、今年、コロナが起き、国際エネルギー機関(IEA)は4月、今年のCO2排出量が約8%減少すると予測したのです。
 皮肉にもこのコロナ禍で、CO2をどのくらい減らせば、地球温暖化のスピードを食い止められるのか、その目指すべき新しい経済社会のイメージが見えてきたのです。コロナで減ったCO2をなるべくリバウンドさせることなく、テレワークなどの新しい生活様式を広め、再エネを最大限活かし、技術革新を進めれば、温暖化のスピードを緩和できる可能性がでてきたのです。

 来年、2021年は、福島の原発事故からちょうど10年。原発が国民の信頼を取り戻すのは難しく、再稼働は容易にはできません。脱炭素社会を実現するには、再エネをどこまで伸ばせるかが最大の鍵を握っています。
 これまでの取材がきっかけとなり、この夏、私は、環境省の「中長期の気候変動対策検討小委員会」の委員を拝命しました。日本の温室効果ガス排出量を具体的にどのように減らしていくのか、その議論が始まっています。

 手元足元にある自然資源と向き合い、その自然を破壊することなく上手に利用し共生する「再生可能エネルギーの地産地消」は、温暖化問題に立ち向かう脱炭素化の切り札になり、真の地方創生を実現させる可能性があります。それは、まさに持続可能な社会、SDGsの理念にもつながるのです。

 再エネ大国の実現に向け、今、時代が大きく動き始めています。よろしければ、拙著をご一読いただければ幸いです。

「再エネ大国 日本」への挑戦

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