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7月14日 シンガポール緊急取材 100兆円水ビジネスを追う!

先日、報道ステーションの取材で、シンガポールに行ってきました。
テーマは、100兆円市場、水ビジネスの最前線です。
シンガポールに、世界中の国々からの企業、関係者が集まり、
水ビジネスの巨大見本市が開かれていたのです。



一般的に水が豊かに感じられる日本にいますと、
水ビジネス?一体何のことだろう??と思われるかもしれません。

しかし、実は今、急速に進む地球温暖化や新興国の急激な工業化で、
世界中できれいな水を必要としている国々が大変な勢いで増えているのです。
世界で、水不足に苦しめられている人は、現在5億人とされていますが、
なんと国連の予測によりますと2050年にはその人数が、
40億人に急増すると見られています。
これは予想される世界総人口の実に45%、つまり2人に1人にもあたる数字です。

そして、きれいな水を生産し供給する市場は、
現在の60兆円から、2025年には100兆円になるとされています。
世界の半導体市場が25兆円ですから、
その4倍にもあたる巨大市場が誕生しようとしているのです。

こうした水ビジネスで世界の先頭を行くのは、
水メジャーと呼ばれる、フランスをはじめとするヨーロッパの企業です。
特に150年の歴史を誇るフランスのヴェオリアやスエズなどの企業は、
世界市場の8割を占めるという、まさに水業界の巨人として君臨しています。

彼らの強みは、きれいな水を作り出す再処理機械から、
プラント建設、そして上下水道の維持管理まで
一貫して手がけているところにあります。
このうち、特に上下水道の維持管理は巨大市場の90%を占めているのです。

もちろん、技術立国の日本も、汚水をきれいな水に再生させる特殊な膜など、
機械の分野においては世界一の地位を誇っています。
ところが、この機械の市場は100兆円ビジネスのわずか1%といわれていて、
90%を占める維持管理部門と比べますと、市場規模で雲泥の差があります。

つまり日本が得意とする機械分野でいくらがんばっても、
結局は上下水道の維持管理を押さえる水メジャーの下請けになりかねない、
という危機的な現状があるのです。

もちろん、日本の企業も、特に中国や中東などの新興国市場で、
プラント建設やきれいな水の維持管理という、
トータルな水ビジネスに参入しつつあります。
しかし、規模からみれば、その挑戦はまだ始まったばかりです。

ここで、非常に参考になるのが、
貿易、金融立国として知られるシンガポールの取り組みです。

シンガポールは地理的な条件から、長らく、
国内で必要とする水の多くを、隣国のマレーシアからの輸入に頼ってきました。



しかし、水の値上げを求めるマレーシアとのトラブルが絶えず、
水の完全自給を求めて、世界的にも珍しいある試みを始めたのです。

それが、ニューウォーターと呼ばれる水です。
なんと彼らは、トイレや台所からの生活排水をきれいな水に再生して、
飲料水のレベルにまで浄化してしまったのです。
このニューウォーターは、すでにシンガポールの蛇口から出る水にも含まれていて、来年には、シンガポールの水の30%をまかなう計画です。

このニューウォーター、私も飲んでみましたが、
ややためらいは感じるものの、味も匂いもなく、
飲料水として全く違和感はありませんでした。



さらに、シンガポールでは、
水ビジネスを経済の成長エンジンと位置づける明確な国家戦略のもと、
上下水道の維持管理までのトータルな水ビジネスを行う企業を育てています。
わずか20年前に設立されたハイフラックスというシンガポールの企業は、
国の強力なバックアップもあり、急成長を遂げ、
すでに水市場においては、その規模で、日本の企業を追い抜いています。

実は、日本は、水ビジネスが成長しづらい素地があるといわれています。
日本では、上下水道の維持管理は、
地方自治体の水道局が行ってきた歴史があり、
民間企業での経験がほとんどありません。

また、水をめぐる行政が、ダムや下水道は国土交通省、
上水道は厚生労働省、農業用水は農水省、
工業用水は経済産業省、環境基準は環境省などというように、
日本固有の縦割りになっていて、
水をめぐる法律だけでも約50本もあるといわれています。

ここ1,2年で、日本でも、
こうした状況を打破して水ビジネスを成功させようとする挑戦が、
政界や経済界でも少しずつ始まっています。

日本の得意とする技術を活かし、さまざまな企業が良いところを持ち寄って、
政治の強いリーダーシップの下、オールジャパンで進むことが、
世界の巨大水市場で成功するために重要だといわれています。

これまで、アフリカなどの最貧国に対する水のODAでは、
日本は世界一で、多大な貢献をしてきました。
しかし、そうした最貧国が経済発展を遂げて、
大量のきれいな水を必要とする新興国になったとき、
水ビジネスを通しての日本の貢献は、まさにこれからなのです。

きれいな水や技術を求めている国々にも喜ばれ、
そして日本の企業にも大きな発展性がある、まさにウィンウィンの巨大市場、
100兆円の水ビジネスへの挑戦は、今、始まったところです。

   
 
 
    
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