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7月23日 グリーンランド取材後記。そこは地球温暖化の最前線でした!

ここ数年、東京でも35度を越える日が続くなど、間違いなく地球温暖化は進んでいると肌で感じてはいました。しかし、今回の取材で、温暖化によって今現実に起きていることを目の当たりにし、その影響の大きさに、正直、驚きました。

地球危機2の取材で、今回、私が向かったのは、極北の地、グリーンランド。大地の85%が氷で覆われているこの世界最大の島で、近年、その氷が急速に溶け出しているというのです。

取材が行われたのは、6月前半の2週間でした。すでに、1週間前ほど前に現地入りしていた撮影スタッフを追って、単身、成田空港から現地へ向かいました。

グリーンランドへは、北欧の国・デンマーク経由で、片道が丸2日かかる長旅です。途中、乗り継ぎのためにデンマークの首都コペンハーゲンで一泊しました。



コペンハーゲン

北欧らしいハイセンスなデンマーク・コペンハーゲン空港から4時間ほど北西に進路をとり飛行すると、突然、眼下に見たこともないような白銀の世界が広がり始めます。これこそが、世界最大の島グリーンランドを覆う氷の大地、氷床です。その厚さは、最大で3000メートルにもなると言います。



氷床

最初に降り立ったグリーンランドの地は、かつて米軍の基地があった街カンゲルス・アーク。国際線と国内線のトランジットに使われているその滑走路以外には、ほとんど何もないような静かな場所です。ここで、国内線のプロペラ機に乗り換え、2箇所の街を経由して、さらに3時間ほどかけて、ようやく今回の目的地、グリーンランド中部の町イルリサットに到着しました。

イルリサットは、カラフルな家々が点在する漁業や観光を中心とした小さな街で、人口は5千人弱。すぐ隣には、氷河や氷山に埋め尽くされたイルリサット・アイスフィヨルドがあり、世界遺産にも登録されています。街からは、すぐ目の前に巨大な氷山が見え、まずはその圧倒的な光景に目を奪われました。



イルリサット

このアイスフィヨルドは、世界で最も速く動くことでも知られ、一日に20から30メートルほど進むと言われています。フィヨルドの上流部分にあたる氷の大地・氷床が、近年次々と溶け出し、それが最終的には氷山となって、このアイスフィヨルドへと流れ込んできているのです。そして、その量は、ここ10年で2倍にも増えているといいます。



アイスフィヨルド

グリーンランドを覆う氷の大地・氷床が今どうなっているのか?私たちは、ヘリコプターをチャーターしてアイスフィヨルドに沿うようにして上流部分を目指しました。

ヘリコプターからみても、氷山の大きさは圧倒的でした。大きいもので、見えている部分だけでも高さは100メートルほどもあります。その大きさに驚かされながら、さらに先に向かうと、前方に巨大なダムのような氷の壁が見えてきました。高さは300メートルほどもあるといいます。ここが、氷河から氷山が砕け落ちる場所、氷河の先端にあたる、舌端部でした。



氷山

実は、この氷河の舌端部自体も、この10年で15キロも後退しているといいます。温暖化の影響で氷河自体がどんどん溶け、短くなっているのです。

この舌端部を越え、眼下に、一面に広がる氷の世界を確認しながら、ヘリはさらに内陸へと進みました。10分ほど飛行したところで、衝撃的な光景が目に飛び込んできました。一面真っ白な氷床の中に、巨大な、そして見たこともないような真っ青な湖が出現していたのです。さらに周囲には、氷が溶け出して出来た激流が幾重にも走っていました。



空撮

上空から見ると、こうした光景は、周辺のあちらこちらに無数に広がっていました。
私たちはヘリのパイロットの指示に従って、慎重に場所を選び、その激流の近くに着陸を試みました。パイロット自身も、ゆっくりと時間をかけながら着陸場所を選びます。窓の外に氷の大地が近づくにつれ、ヘリの風圧のために、一面の氷が紙ふぶきのように舞っていました。

そして、着陸…。
ヘリのドアをあけ、降り立った氷の大地。周囲360度に広がる白銀の世界に息を飲みました。と、その瞬間、足元に違和感を覚えました。氷が解けているのです!軽く踏むと、ずぼっと靴が入ってしまうような、例えて言うなら、雪解けの季節を迎えたスキー場に立っているような感覚です。私の足のすぐ目の前には、小さな水溜りも出来ていて、その水を手ですくうこともできました。



着陸地点

この時、立っていた場所は標高約800メートル。同行したグリーンランドの氷床の専門家・コペンハーゲン大学のヨンセン博士よれば、足元には厚さ500メートルもの氷があるとのこと。しかし博士自身も、この季節でこれだけ解けていることは驚きであり、氷が崩れかかっているところもあるので、十分に注意して取材するようアドバイスを受けました。

靴底には滑らないよう特殊な器具を取り付け、また私自身にも命綱をつけて、博士と一緒に慎重に、ゆっくりと、激流が流れている方向に向かいました。少しずつ進むにつれ、激流の音が大きく聞こえてきます。そして切り立った氷の崖にたどり着いたとき、目の前に、真っ白な氷の大地を切り裂く、エメラルドグリーンの一筋の流れが見えました。しかもものすごい勢いです。そして、その激流は私たちの右前方で、突然氷の大地に大きな穴を開け、その奥底へと流れ落ち、消えていました。



激流

ヨンセン博士によれば、この穴に流れこんだ水は、そのまま氷の大地をつき破り500メートル下の岩盤にまで達しているそうです。そしてその水が、氷の大地とその下の岩盤の間に入り込み、あたかも潤滑油のようになって、氷床自体を滑らせるといいます。滑った氷床は氷河となり、さらに氷山となって砕け、次々と海に溶け込んでいるのだと言うのです。
博士によれば、こうした激流や湖が、ここ最近の温暖化の影響で増えつづけているのだそうです。



湖の前にて

グリーンランドを研究している専門家の間では、温暖化の影響で、グリーンランドや南極の氷が溶け出すことによって、2100年までに海面が1メートル上昇すると言われています。

さらに、グリーンランドの氷が溶け出すことによって、世界中を巡る海の流れ、海洋大循環にも異変がもたらされるといわれています。その結果、例えば、高緯度でありながら温暖な気候を保っているヨーロッパなどは、メキシコ湾流の流れが止まり、一気に寒冷化が進むというのです。

こうした一方で、温暖化の影響によって、現在グリーンランドに住む人々の生活には、すでに異変が起きていました。

近年の暖かさによって、冬に海に張る氷が非常に薄くなり、氷の上で犬ぞりによって漁を営んできたイヌイットたちの生活を脅かしているのです。ある漁師は「危険なので漁に出られる機会が激減してしまった。収入はかつての3分の1に落ち込んでいる。」と語っていました。

逆に、温暖化のために後退した氷河の下からは、鉄、亜鉛、鉛などを豊富に含む鉱山が各地で発見されました。イルリサットからヘリコプターで2時間ほど北に行った場所を取材しましたが、ここでは、すでにイギリスの資本が入り、今年中の稼動を目指して、準備が急ピッチで進められていました。その鉱山で働く地元男性は「この足元には、膨大なお金が眠っている。漁師たちには悪いが、人生、所詮そんなものだろう」と上機嫌に語っていました。



鉱山

温暖化は、伝統的な生活を送ってきたイヌイットたちの暮らしぶりをも大きく変えようとしているのです。

今回の取材は、驚きと発見に満ちたものとなりました。
また、私自身、地球温暖化の現実を思い知らされた旅でした。

日本も温室効果ガス排出大国の一つです。
私たちの暮らし方によって、地球の反対側で、その国の地形が変わってしまったり、そこで暮らす人々の生活までもが変化を強いられているとも言えます。

グリーンランド…。そこは、まさに地球温暖化の最前線の場所でした。
温暖化は、今、待ったなし、のところまで来ています。

   
 
 
    
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