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4月8日 なぜ2億5千万円は消えたのか?介護タクシー不正事件取材後記

今回、報道ステーションの特集の取材で訪れたのは、北海道滝川市。札幌と旭川の間に位置し、かつて石炭産業の全盛期には交通の要衝として栄えた、人口4万5千人ほどの静かな街です。去年、この街を震撼させる大事件がおきていました。

滝川市に住んでいた元暴力団員の夫婦が、生活保護の通院費としての介護タクシー代を、市から1年8ヶ月にわたって不正に受給し続け、その額が2億5千万円にもなっていたのです。



夫婦は、騙し取った金で、高級車を乗り回し、札幌に温泉付きのマンションを借り、覚せい剤を使用。さらにすすきのの飲食店にも足しげく通っていたといいます。

この夫婦によって市に請求された滝川から札幌までの介護タクシー代は、1回当たり25万円という法外な額。さらに、請求の回数も増え続け、多い月には2000万円近い額が市から支払われていました。



通常、このような極端な支出があれば、市の担当者が異変に気づき、すぐに何らかの対策をとるはずです。ところが、滝川市は、夫婦が逮捕されるまでの1年8ヶ月もの間、実質的に有効な手立てをとることなく、巨額の支出を続けていたのです。

なぜ、市はこれほどの大金を払い続けたのか?
私たちの取材に、市の担当者は、「制度的に問題がないので、おかしいとは感じなかった。」と淡々とした表情で語りました。しかし、仮に制度上、許可が出た案件だとしても、支出される異常な額を一度でも見れば、明らかにおかしいということには、気づくはずです。

また、市長は、私たちの直撃取材に対して、「反省すべきことはある。しかし、脅されたということは一切ない」と話しました。であれば、なぜ払い続けたのか?その明確な答えは、市長から一言も返ってきませんでした。



北海道警は、市の職員を、背任での立件も視野に捜査をすすめていましたが、逮捕された夫婦から市の職員への金の流れを掴めず、捜査は打ち切られています。

私は、この問題の根底にあるのは、お役所仕事の発想なのではないか、と思っています。仕事をしている間は、なるべく波風立てずに、何事もなく終わってほしい、という事なかれ主義の集大成が、この結果につながったのではないでしょうか?

夫婦への異常な支出については、担当していた職員が少なからず気づいていたはずです。でも、そこで、面倒なトラブルに巻き込まれたくない、余計な仕事を増やしたくないというような、後ろ向きの発想がそれぞれの職員の頭にあったのではないか、と取材して感じるのです。

そして、小さな街だからこそ、声を上げにくいといった背景もあったのかもしれません。声を上げて、後でトラブルに巻き込まれるのはごめんだという発想だったのでしょうか?

しかし、その不作為の積み重ねが、2億5千万円という途方もない支出につながってしまったのです。

夫婦に払われた2億5千万円は、私たち国民の税金です(4分の1は地方自治体、4分の3が国からの支出)。結局、損害を被るのは私たち国民なのです。

この問題、官僚主導の下、借金が膨れ上がる一方で、進むべき道が見つからない、この国の縮図にも思えてなりません。

   
 
 
    
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