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5月18日   ワールドプロレスリング実況四銃士の闘魂コラム#116
〜燃えて萌えた後楽園ホール〜

2007年5月2日
後楽園ホール1階のチケット売り場には、
当日券を求めるファンの長蛇の列ができていた。
試合開始までは、まだ3時間もあるというのに…。
私がプロレス担当になったのはちょうど1年前、
「プロレス人気が・・・」と低迷が叫ばれた
最たる時期だったことを思い出す。
ここ数年ではなかった光景に、
ゾクゾク、ワクワクするものを感じた。


売り場の前に、長蛇の列が延々と続いていた…

会場に上がると、まだリング屋さんたちが
リングを調整している状態だった。
選手たちの姿もまだなかった。
場内のひんやりとした空気に肌寒さを感じた。
その段階では、いつもの試合前と何ら変わらぬ様子だった。

試合開始2時間前、選手たちが会場へとやってきた。
この日の客足がいいということは、
選手たちの耳にも入っていたのだろう。
選手がウォーミングアップをする傍らで、
音響の調整、特殊効果の調整が行われていたが
緊張感ある雰囲気の中にも、
選手自身がいつも以上の期待感を抱いているように思えた。
それでも、そのあと起こる大熱狂、
大興奮の展開までは予想できていなかった。

開場されたのは1時間前。
開場すると瞬く間に客席が埋まっていった。
1階席のスタンド脇や2階の踊り場スペースにも
立ち見客の姿が多く見受けられた。
実況準備に追われながらも、
そんないつもとちょっと違う空間をつぶさに観察していた。

そして、試合が始まった頃には
立錐の余地もないほどに会場が膨れ上がっていた。
試合は、新日本プロレス伝統の第1試合から
前座の力道山ことドン荒川が、若手有望株の平澤光秀と対戦。
62歳とは思えぬ肉体、時折コミカルな技を繰り出す
ドン荒川ワールドが展開され、ファンの心を大いにくすぐった。
さすがは前座の力道山だった!

そこから先は、正しく闘いのワンダーランド。
世界に誇るジュニア戦線、
巷で話題沸騰のサムライジムとC・T・Uの抗争、
すっかりそのヒールっぷりが板についてきたG・B・Hの悪行、
このところやけにバチバチッとしている矢野通と長州力の因縁対決、
物静かな飯塚高史がベルト挑戦へアピールすれば、
中西学は相変わらず本能剥き出しの独自路線などなど。
新日本プロレス、そこにしかない超人個性、熱戦の数々が、
観るものを魅了して止まないプロレス世界へと誘っていった。

この日のセミメイン試合は、IWGP Jr.タッグのタイトルマッチ。
王者の邪道・外道組に、ディック東郷・TAKAみちのく組が挑戦した。
向かうところ敵なし、不動の地位を確立した感のある成り上がりコンビ、
自他共に認める最高タッグが、
同じくインディー団体からの成り上がりで
アメリカWWE(当時WWF)も経験している難敵を迎えた。
かつて挑戦者は王者からプロレスを教わった間柄でもあった。
試合前の観客席からは、
邪道・外道の試合を見に来たという声も多く聞かれた。
それだけこの試合がハイレベルで
スペクタクルなものになることを知っていたからだろう。
邪道・外道は、ここ最近見せなかった表情で、
武者震いするような強敵との闘いを
まるで楽しんでいるかの如く躍動した。
これ以上ないと言えるほどに、繰り出される技の数々、
絶妙な駆け引きが高品質だった。
しかし…挑戦者のそれが王者を上回り、
なんと邪道・外道が王者陥落してしまった。
ディック東郷とTAKAみちのくが新王者となり、
新日本の至宝IWGPのベルトを奪取してみせた。
ベルトの流出… IWGP Jr.タッグ戦線はどうなってしまうのか!?

メインイベントは、内外でも話題を集めた
永田裕志と越中詩郎のIWGP ヘビー級選手権。
大越中コールが後楽園ホールを揺らし、
孤高の侍・越中は入場時に涙を見せたほどだった。
人気バラエティー番組「アメトーーク」において、
芸人ケンドー・コバヤシ氏持込企画の
越中詩郎大好き芸人がお茶の間の心を掴み、
空前の越中ブームを巻き起こしていた。
そんな時代の流れを見逃すことなく、
平成維新軍当時のように越中が台頭し、その越中を
新日本プロレスの土壌がIWGPの舞台へと導いた結果の1シーンだった。
挑戦を受けた永田もミスターIWGPと言われながら、
ここ4年は苦難の連続で、陽の目を見る機会は皆無だったが、
ファンの熱い声援に後押しされて王者へと帰り咲いていた。
今、プロレスファンが求める究極の顔合わせ、
至極の一戦だったのかもしれない。

結果は、王者・永田が貫禄の勝利を収め、初防衛。
敗れた越中は、それでも28年間のキャリアで培った
得意のヒップアタックで場内を何度も沸かせた。
試合後、取材陣の質問を避けるように控え室へと戻る越中に
「負けましたけど、後楽園には確実に
越中さんへの追い風が吹いてましたよ」
と一言だけ投げかけると、
「サンキュー、サンキュー」
とだけ言い残して扉の奥へと姿を消した。
実はその後、控え室前で暫らく待っていたところ、
数人の記者の前に越中が姿を見せた。
その瞳からは、大粒の涙が溢れていた。
侍の男泣きに胸がジーンとした。
この日目の当たりにした熱戦、
後楽園を揺らしたファンの大歓声は忘れないだろう。

翌5月3日の興行も超満員札止めの大盛況だった。
正にゴールデンウィークとなった。
プロレスへの熱、新日本への熱は確実に戻ってきている!


越中詩郎、男泣き!!
   
 
    
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