11・11両国。IWGPヘビー級選手権試合。
「王者・棚橋弘至 VS 挑戦者・後藤洋央紀」の一戦。 |

試合前。にらみ合う両者 |
この試合を僕は、観客席の後方、会場中を見渡せる場所で、
実況練習をしながら見つめていた。
以前プロレス班のスタッフから、
新日本プロレスのファンは「常に変化を求めるファンが多い」と聞いたことがあった。
その為、ベルトをかけた一戦では、
王者よりも挑戦者を後押しする声が多くなることが、往々にしてある。
やはりこの試合も、そうだった。
試合開始直後、声援は、王者ではなく、挑戦者・後藤選手の方に向けられていた。
「後藤コール」の方が圧倒的に多かった。
試合は、どちらも譲らない意地のぶつかりあいが続く。一進一退の攻防。
試合が大きく動いたのは、後半、開始から25分が経過したところだった。
後藤選手が棚橋選手を受身の取れない角度からマットに叩きつけたのだ。
棚橋選手は首から落下。見たこともない技だった。
その瞬間、
「グシャリという音が聞こえてきた!!」実況を担当した吉野さんがそう伝えた。
その横で解説者は「後藤が潰しました」とおっしゃった。
その空気を十分に感じた会場は、その瞬間、静まり返った。
棚橋選手は自らの手で自らの頚椎を押さえ、マットでもがき苦しむ。
異様な空気に包まれる会場。すかさずリングドクターが出てくる。
ドクターは棚橋選手の状態を確認しようとする・・・が、それを振り払う後藤選手。
「決着をつける」という気持ちの表れか。棚橋選手も朦朧としながら立ち上がる。
試合は、続行される。
ここから一気に試合の流れが変わる。
勢いは後藤選手に・・・。
一気呵成に攻める、挑戦者・後藤選手。
ベルトが動き始めた。
繰り出される大技。フラフラ状態の棚橋選手。
「もうこれで終わりだ」・・・僕は、何度もそう思った。
「負けた」・・・会場も、何度もそう感じたと思う。
しかし、
「カウント2.9」
何度おさえこまれてもカウント3まで達することはなかった。
王者は最後まで、怯まなかった。
首を痛め「戦える状態」ではないはず。
それでも王者は譲らなかった。
この状況を、吉野さんは、「命のやりとり」と実況した。
涙が出そうになった。
正直、棚橋選手が立ち上がり続ける事が、僕には信じられなかった。
そして、そう感じ始めた時だった・・・。
最初、後藤選手への声援が多かった会場の空気が変わり始めた気がした。
「王者」が、「男」が、その魂のファイトをもって、会場の空気をも変えてみせた。
そして、会場の声援を力にするかのように、王者は甦った。
「棚橋コール」に変わった会場で、「最後の力」を振り絞り、挑戦者を攻める。
「どこにそんな力が残っていたのか・・・」
そして遂に・・・ |

勝負を決めた!テキサスクローバーホールド!! |
棚橋選手は勝った。
挑戦者を敗った。
王者は、王者であり続けた。
プロレス班に仲間入りして、三大会目。
試合を見て体が震えたのは初めてだった。
試合後、挑戦者は、
床に座ったまま言葉をしぼり出すようにしてインタビューに答えた。
「棚橋は強かった。」
この言葉が、試合の全てを物語っていた。
試合後、王者も、立っていることさえままならない状態だった。
試合後、それでも王者は一言だけ、
本当に一言だけインタビューのマイクに向かって言葉を発した。
「このベルトは誰にも渡さないから。」
この言葉が、棚橋弘至の全てを物語っていた。 |

王者・棚橋弘至 |
2人の誇りがぶつかり合った、本物の死闘。
この日、またプロレスのとりこになった。 |