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7月27日   ワールドプロレスリング実況三銃士の闘魂コラム#125
〜光〜


客は何を見に来ると思う?

死ぬ、かと思った
人が死ぬ時ってこういう感じなのかな、って

リングの上には血だまり
リングサイドにはあまり経験のない血のにおいが
濃くたちこめて、客席には気分が悪くなっている人もいる

肉体がぶつかり合う度に血しぶきが舞って
リング下に降ってくる

挑戦者の真壁のこめかみの辺りはパックリと割れ
ダラダラと大量の血が相変わらず流れ続けている

リングドクターがこれまでにない切羽詰った表情で
リング内に入り、試合を今すぐ止めるべきか決断を迫られている

王者の攻撃は止むことなく
これでもか、これでもかと大技が繰り出されていく
しかしその度に真壁は立ち上がった

「真壁死んじゃうんじゃないか」
「試合よ早く終わってくれ」

そんな悲痛な空気が後楽園ホールを支配する中
試合はいつ終わるとも知れない攻防が続いた


真壁刀義はよく「雑草」に例えられる
誰にも気に止めてもらえない
エリートの対極に位置して、泥水をすすって這い上がる
上に行くためには何でもする、そんなイメージ

そんな男がデビュー10年でつかんだ初めてのチャンス
「IWGP挑戦」

試合前に流れたVTRはチャンピオン永田を中心としたものではなく
真壁がこれまでに味わった屈辱をまとめたものだった
判官びいきは世の常で、後楽園ホールは真壁コールに染まる

だからといって、何でもありのラフファイト、凶器に反則当たり前の
真壁のファイトに変化はない

それが真壁が歩んできた道だから
雑草には雑草の生き方があるとでも言いたげな
闘いはいつしか過去に例のない大流血戦となった

結局、真壁はベルトを取れなかった
王者の前に最後は文字通り血の海に沈んだ
しかし真壁を敗者と捉えた観客はいなかったのではないか
雑草に燦燦と太陽が降り注いだ瞬間は確かにあった
その光は真壁にしか放てない光だと思う

プロレスには闘う男の生き様が出る


 これが真壁刀義
   
 
    
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