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1月24日   ワールドプロレスリング実況四銃士の闘魂コラム#101
〜決意〜

1月4日の東京ドーム大会。
スーパードリームタッグマッチと銘打たれて行われたのが
武藤敬司・蝶野正洋 vs 天山広吉・小島聡。

闘魂三銃士と第三世代の闘い。
90年代の新日本ドーム時代で輝きを放った2人と
21世紀のプロレス界をリードする2人の
「世代闘争」がこの試合のメインテーマ。

と実況を担当した自分は考えていた。

観客の立場に近い感情を自分なりに捉え、
それを半歩先に進めた形で臨むのが実況アナウンサーの務め。
今でもその考えは間違っていないと思っているが、
実況アナウンサーはそれだけではいけないことを
今回は思い知らされた。


実況席のゲスト解説は「プロレス界の帝王」高山善廣。
核心をズバッと突くその舌鋒ぶりはファンならずとも知るところであるが、
試合開始直後に高山選手は世代交代についてこう発言した。

「“時代を変える”って言ってる奴には時代は変えられないんだよな」

試合開始直後にしてメインテーマ全否定!!

自分が喋ろうと作ってきた実況資料が
頭の中でガラガラと音を立てて崩れていく。
この東京ドーム大会前からマスコミはしきりと
「世代闘争」をあおり、天山と小島は「時代を変える」と発言していた。
一方の武藤と蝶野も「まだ自分たちの時代を変えさせない」という類の
発言をしていた…なのに全否定?!

この発言の真意を読み取らなければならない。
この発言の裏には何か高山選手なりのテーマがあるはずだ。

そんなことを考えながらの実況。
いつしか自分は「喋りの独り相撲」「実況の堂々巡り」というラビリンスに
すっかり迷い込んでしまっていた…。


試合は武藤・蝶野組が勝利。
勝った2人は故橋本真也の鉢巻を巻き、
メインモニターには在りし日の橋本選手の雄姿が流れている。
ラビリンスで憔悴しきった自分は「まだ時代は変わらないのか〜」と
陳腐なセリフをはくのが精一杯であった。

その場から泣いて逃げ出したいほどの出来の悪さ。
ここまでへこむ事は近年あまりなかった。


数十分後、迷宮に射す一条の光のように
解につながる言葉が会見場で選手たちの口からもたらされた。

「世代間どうこうは、プロレスは関係ないんじゃないかな。
三銃士は世代は別にして、俺たちにとっての高い壁だと思うし(小島聡)」

「彼らは成長段階だからね、
俺らは成長していく変化ってなかなかできないから(蝶野正洋)」

自分を含めたプロレスファンはとかく理論構築が好きで、
選手たちの関係や歴史をこねくり回して
自分の世界観で語りたがる(そうじゃないファンの方ごめんなさい)。
「世代闘争」「因縁決着」「下克上」
言われてみれば確かにそう思うし、なるほどとも思う。

でも「強くなりたい」「強くありたい」男たちが
純粋に強さを求めてぶつかり合うという闘いの原点を
自分自身、忘れてしまっていたようだ。

もっとシンプルに
もっと純粋に

プロレスを追っていきたいと思う。
今年もよろしくお願いします。


「三銃士世代」の武藤と蝶野
   
 
    
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