取材・文:中村裕一 今回のインタビューは前編・後編のお得な2本仕立てです。 インタビューのゲストは国吉伸洋アナと中山貴雄アナ、実況研修を終えたばかりの萩野志保子アナを迎え、「プロ野球討論」マンスリーインタビューを行いました。
よくみなさんまるで受験勉強みたいにすごい資料を広げていますけど、あれはどういうことをしてるんですか? 選手のデータやプロフィールを書き込んでいるだけど、やらないと不安になるんだよね。書いているうちに頭にも少し残るし。結局気休めみたいなものかもしれないけど。 今までの試合の蓄積というか、以前の対戦はこうだったとか事細かに書いてらっしゃいますよね。 そう、だからすごい時間がかかる。夜中の1~2時くらいまで、それこそ実況の5日くらい前からやってる。それぞれの人によってそのスタイルも違うし、僕は上の人がやっているのを見て自分なりに選手のデータや、解説者にどんな話をふるのかとか箇条書きにしたりしてる。データは選手によるけど、やっぱり松井や高橋といったメジャー級は新聞から何から引っぱり出してかなりさかのぼって調べるよ。それとはまた別に毎日12球団の動向については資料をつけているから、それも活用して。 僕の場合、だいたい夏の甲子園の東京都予選が始まる頃に資料を書くのがおろそかになる球団が出てくるんですけどね(笑)。 俺は6月かな(笑)。ル・マンが始まる前であきらめる(笑)。
やっぱり一人で12球団を追い続けることは無理だし、人間の記憶も曖昧だからね。印象に残っていることと実際とは違うことっていっぱいあるから、それを自分なりに修正するための作業なんだよ。「あ、3試合ヒットが出てないんだ」とか。それで安心するという部分もあるし。 例えば「あの選手調子いいな」と思っていても、実際にデータを書き出してみると違った、ということですか? そういうこともあるよ。結構打っているような印象があるんだけど、ここ3試合3打数ノーヒット、4打数1安打、2打数ノーヒット…あんまり打ってないな、とか。もちろん逆の場合もある。 僕は最初、国吉さんや松井さんにやり方を聞いたんだけど、その頃西武中心にリポーターをやっていたんでそれを基本にパ・リーグのデータを充実させていった。今年はセ・リーグも、中でもヤクルト、西武、巨人をちゃんと見ておこうと思ってる。 確かにすごい労力だしデータマン的な存在がいれば楽ですけど、自分で新聞引っぱり出して調べてコピーして書く、という作業をすることで自然と頭の中に入ってゆくんですよ。それは試験前というか受験勉強に近い雰囲気があるかもしれない。 僕はもうしっかり一夜漬け派でしたね(笑)。国吉さんのやり方を見てると、しっかりと勉強してきたんだなって思いますよ。 なんか国吉さんの学生時代が目に浮かんでくるようです(笑)。 3連戦の真ん中の日の実況前日なんて、夜中3~4時までアナウンス室にいて資料を作って、そのまま帰宅して朝7時には会社に来て新聞を広げて…という感じ。そこまでやらないと自分でも納得しないところもあるし、そういう作業が好きというところもあるよね。 国吉さんはドラフト会議の時なんか一ヵ月前から資料作ってますよ。 直前になってあたふたするの嫌だからね(笑)。とにかく不安を0にしたいんですよ。 2年前に初めてプロ野球の実況に挑戦した時、納得しなきゃと思っていっぱい書いたんです。でも読めない(笑)。字は小さいし、緊張から舞い上がってしまうし…。逆に僕にとって書くことは不安の現われだと思いましたもの。だから最近思ったのはバッターは最低でも4回はバッターボックスに立つから、4つネタがあればいいじゃないか、と。あとはなるべく大きな文字を書くということ。あれもこれも書こうとなるとどんどん文字が小さくなってしまうんですよ。 僕はいくら小さくなっても書きます。自分でも読めない時もあるけど(笑)。本番中にはとてもじゃないけどメモを見る余裕はないから、CMの時とかにチラッと見たりする程度なんだけど「こんないいこと書いてあるのに何で読めなかったんだ」という経験もいっぱいあるよ。 僕なんか初めての頃は本番の時の自分を信用できないから、解説者への質問事項も全部書いたんですよ。でもその通りにはなかなか行かない。手元にはバッター用とピッチャー用のメモ、そして解説者への質問、その下にデータが書き込まれた記録帳があって、もう1回表でグッチャグチャ。失語症になる(笑)。解説者の方は優しいから救ってくれることもあるけど。
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