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スピードスケートに入った新しい種目、チームパーシュートは面白い。
1チーム3人で滑り、女子はリンクを6周。男子は8周する。2チームで競い、早くゴールしたチームが勝ち。 |
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少しでも早くゴールをするためには、3人で協力して先頭を交代しながら、スピードが落ちないようにしていく必要がある。どこの国も同じような力量の選手を3人そろえるのは容易ではない。
チームパシュートの難しさを根本奈美は「その日によって誰が調子が良くて、誰が悪いかを滑りながら判断して、ペースを作っていくのが難しい」と言う。
また、メダルを手にするためには、全てを全力で滑ればよいというものでもない。
捨てるレースも必要だ。歯が立たない相手とのレースでは、その次の国との対戦に体力、脚力を温存しておく必要がある。どこで勝負をかけるかはコーチの頭脳と判断が要求される。
これまで一人だけでレースをしてきた選手たちが3人のチームとなって競い合うのだから、この種目が初めて採用されることになったトリノ五輪はアクシデントの連続だった。
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女子のレースでは、中国チームの3番手の選手がスタートして数歩のところでエッジの先端を氷に引っ掛けて前のめりにばたりと倒れてしまった。ただならなぬ気配を感じて振り向いた2番手の選手が事態を知って、狼狽しながらも、先頭の選手にその旨を伝え、ペースをダウンして3番目の選手が追いついてくるのを待った。とっさの判断とはいえ、なかなかのものだった。
また、パシュート初日、日本と第二戦で対戦したノルウェーにも魔女がウィンクをしてしまったようだ。予想より速いラップを刻むノルウェー。格下と思っていたノルウェーにリードを許し、内心日本のコーチ陣はあせっていた。ペースアップのためのギアチェンジを指示するが、スローペースで入ってしまったために思うようにスピードが上がらない。
残りは2周。日本チームがあせり始めたその時だった。ノルウェーの3番手の選手が突然よろけるように転倒。乳酸が溜まり始め脚の自由が利かなくなったところに、実力以上のスピード出して、しかも3人であわせなければならない心理的なあせりも加わったのだろう。ノルウェーの敵の思わぬアクシデントで勝利を手に入れた日本は、準決勝に駒を進めたのだ。
パシュート2日目、男子の優勝候補オランダの転倒も信じられないものだった。地元イタリアチームと対戦し快調に飛ばしていた。トリノまで駆けつけたオランダからの応援団の大声援がオーバルにこだまする。勝利を目の前にした6周目、コーナーの出口で3番手と2番手の選手が接触転倒。コーチは額に手を当て、天を仰ぎながらマットの上に倒れこんだ。
何があるかわからない競技。結構面白い。
今、この原稿をチームパシュート2日目順位決定戦が行われるオーバルの会場で書いている。ここまで書いたところで、女子の日本とロシアの銅メダル争いのレースが始まった。
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日本は大津が最初先頭で引っ張る。スピードのある田畑が一瞬ついていけなくなるほど、力のこもったスタートだった。
レース前、田畑が石野に言った。「今日はついてこられないくらい本気でスピード出すからね。」それに石野は答えた。「食らいついていきます。」
こうして始まったスピードレース。
日本は200m14秒台を刻み、2周したところでロシアに1秒の差をつけてリード。
このペースで行けば銅メダルはいただきだ、そう信じた矢先だった。
4周目の最後のカーブ。先頭の大津が田畑に先頭を譲る。
大津は右に大きく膨らんで位置を譲る。
大津はあせっていた。
「その前の先頭交代のときに田畑さんについていけなくなりそうだったので、今回は何とかついていこうとあせっていたんだと思います。」
先頭交代を終えた大津の身体はバランスを失って重心が後ろに倒れる。
気がついたとき、お尻から氷の上に投げ出され、全身をマットで強打していた。
「あまり覚えていないのですが、多分自分のエッジで反対のエッジをけってしまったんだと思います。」
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まさかの転倒
大津はマットに激突 |
ああ、まさか日本が転倒するとは・・・
パシュートは面白いと書いた矢先の出来事だった。
しかし、意気消沈する大津にリーダーの田畑が手を差し伸べ、硬い握手をする。
田畑の顔には笑みが浮かび、「がんばったよ」といっているように見えた。
石野も駆け寄り大津と抱き合う。
さらに、大津とすれ違ったロシアの選手が、ぬいぐるみをそっと大津に差し出し、観客席のオランダの大応援団からは温かい拍手が送られたのだ。
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大津に田畑と石野が手を差し伸べて握手
ロシア選手がそっとぬいぐるみを手渡す |
選手たちは肉体で勝敗を決しているだけではない。
観客は選手の肉体の勝負だけを見ているだけではない。
選手たちは心と心でたたえあい、
観客は選手たちの心の中もそっと覗いている。 |