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Vol.80 「引越し」(2009/05/18)

取捨選択。
その意味を、身をもって噛み締めている。
結婚後初めての引っ越しを終えて、二週間が経った。

なるべく荷物をコンパクトにしたい私。
物が全く捨てられない夫。

「それ要るの?」
「何かの時に…」
「何かの時って、いつ?」

大きな金槌や組み立て式テントが、日常生活に必要とはなかなか思えない。
「災害時のサバイバルに…」と、夫がぽつり。
かたや私は、テレビ裏のコードの樹海で格闘中。
いよいよ頭は混迷を極める。

帰宅しては、連日「要る?」「要らない?」の査定会。
ゴミ袋と疲労が日に日に積み上げられていく。
居間、よし。台所、使いかけの調味料以外、何とかよし。
次はクローゼット。ここで、攻守逆転となった。

「そのカバン、使うの?」と夫。
「何かの時に…」

無類のカバン好きである私にとって、この場所は聖地だ。
だが、「何かの時って、いつ?」という自らの前言に倣えば、
数々の工具やアウトドア用品と同じ待遇となる。
「ええと、あとは私がやっておくから…」
買出しに送り出した隙に、
疾風の如く段ボールに詰め込んで粘着テープでしっかりとめる。

数々の「取捨選択」の末―。
荷物共々、がらがらどしゃんと転がり込んだ。
捨てる神にも拾う神にも、およそ顔向けできない混沌。
ここ最近は、片手鍋でコーヒーを淹れ、食べているのは専らシリアルばかり。
まだ何となく、新しいルームシューズがおろせずに、
揉めた末に持ってきたぼろぼろのスリッパで、右往左往している。



ウンベラータ
花屋さんで一目ぼれして、新居に


(「日刊ゲンダイ 週末版」5月18日掲載)
   
 
 
    
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