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Vol. 39 「七色の指」(2006/09/18)

HPを御覧の皆様、ご無沙汰しております。
久々にパソコンのファイルを整理したら、アップされていないコラムがざくざくと…。
すっかり更新が滞ってしまい、本当にごめんなさい。
これから少しずつ、過去の原稿をパーソナルページに掲載していきます。
年内には、駆け込みで御覧頂けることを願いつつ…。
 
まずは、日刊ゲンダイ(土曜版)で連載中のコラムから。
『ちい散歩』(http://www.tv-asahi.co.jp/sanpo/)を担当することになった当初の
お話です。



おすすめのお散歩コース、募集中です

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昼間なのにほの暗い、ホテルのラウンジ。
ゆったりしたセーターに、コットンパンツ。キャスケットを浅く被り、ふかふかのソファに腰掛ける男性。
「初めまして、地井です」
今年の4月。新番組『ちい散歩』を立ち上げる時に、
制作スタッフと出演者による初めての打合せが行われました。
俳優の地井武男さんが案内人となって、都内のお散歩コースを紹介します。
頭の上のほうで、ディレクターたちの熱心なプレゼンテーションが聞こえてきます。「ガイドブックに載っていないようなコースを紹介したいですよね」
「谷中や根津の路地には、美味いものがたくさんありますからね」
スタッフの間では、話がどんどん進んでいきます。
でも、隣の地井さんはずっと黙っていらっしゃる。
怒っているのかな…。
恐る恐る様子を伺うと、その手元に目が釘付けになりました。
七色の指。
指先には、黄色や緑の色彩が跳ねています。
「地井さん、手のひらがとっても…」
その瞬間、「いけね、手を洗ってくるの、忘れちゃったよ」
地井さんは、様々な風景画をご自身で描かれているそうです。
「パレットは洗ったのになぁ」
顔を赤くしながら、「でも、村上さんも、手が真っ赤だよ」
今度は私が、「あっ…しまった」
普段、ニュース原稿や新聞記事を読み易くするために
赤い水性ペンを使うのですが、
オンエア直前に作業が立て込むにつれ、
指先はインクで真っ赤になってしまうのです。
「菜の花と、彼岸花みたいだよなぁ」
それぞれが自分の両手を握り締めて、はにかみながら下を向いていました。

あれから、半年。
浅草、等々力、麻布十番、築地、上野、本郷…。
地井さんが行く先々で綴った絵も、スタジオに貼りきれないほどになりました。
ふらりと立ち寄った店先で、コロッケや大福をほおばる。
この時いつも、同行しているカメラマンやスタッフにも、必ずおすそ分け。
「俺一人で食ってもなぁ、寂しいじゃない!」
やっぱり顔を赤くして、ずんずん歩きながらつぶやくのでした。

(「日刊ゲンダイ」9月18日発刊)
   
 
 
    
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