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Vol.30 3月17日 『カミュなんて知らない』

今回は、『カミュなんて知らない』をご紹介します。
カミュといえば…『異邦人』。そして、「不条理の哲学」。

世界を理性で割ってみる。
割り切れなかった「あまり」は、作中に散らばっていました。


『やじうまプラス』のスタッフルームにて

都心の大学で「映像ワークショップ」を受講する学生たちが、ごく平凡な高校生が犯した不条理な殺人をテーマに、『タイクツな殺人者』と題された映画を製作することになった。
クランクインまでの一週間が曜日ごとのカウントダウン形式で描かれ、その群像を捉える。劇中には『ヴェニスに死す』や『アデルの恋の物語』といった名画へのオマージュがふんだんに盛り込まれているが、それらが未見であっても十分楽しめる。

映画製作について詳しく知らなかった私は、クランクインまでの過程も興味深く見ることが出来た。だが、同席した映画会社の知人に言わせると、「学生サークルのノリだなぁ」。

学生サークルのノリ。

その言葉から彷彿とするのは、一昨年、プロ野球界を揺るがした新規参入問題だ。Tシャツ一枚で球団を買おうと名乗りを上げた若者に、球界の重鎮たちは眉をひそめた。体裁、形式、礼儀。物事には、順序があるものだと。

自分にも、思い当たる節があった。就職活動の時期を迎え、最近は学生たちと話をする機会が多い。そこで感じる真っ直ぐさと、やや拙さの残る言葉遣い。

大学生の、初々しさ、真剣さ、奔放さ、危うさ、儚さ。劇中の彼らも、映画という目標に向かって一丸となっているように見える。だが、正確にはやり遂げようとする自身に充足しているに過ぎず、結果は見えていない。実生活における、結果を伴う現実―恋愛や就職活動―に直面した時、士気は脆くも崩れてしまう。気持ちと行動には大幅な開きがあり、それを矛盾として受け入れようとはしない大胆さと浅はかさに、かつて学生だった私は少し胸が痛んだ。現実と非現実が混在した衝撃のラストシーンは、その象徴だろう。

「試してみたかった」

劇中で、何度か登場する言葉である。彼らはいくつかの行動を試すことで、混沌を打開しようとする。
映画製作に行き詰った助監督は、気持ちの揺れから、恋人以外とキスしてみる。
美しい女子学生は、自分に興味があると思われる教授を翻弄しようと試みる。
シナリオの中の主人公は、人を殺してみる。
そして…どうなる。

彼らは未熟である。
“いっぱいいっぱい”で、“とっ散らかって”いて。
それらの精神構造を「甘い」と一蹴することが出来ずに何とも後ろめたい気持ちになったのは、若さ故の激情を忘れていた自分を、切に思い知ったからだ。
その証として、登場人物たちを誰一人として憎めないでいる。
もしかしたら、いや、きっと、羨ましいのかもしれない。
客席の私こそ未熟であることを、どこかで分かっているのだ。

♪作品データ♪
『カミュなんて知らない』
監督/脚本: 柳町光男
出演:柏原収史、吉川ひなの、前田愛、中泉英雄、黒木メイサ、ほか
配給: ワコー、グアパ・グアポ/2005/日本
※公開中
『カミュなんて知らない』公式サイト
http://www.camusmovie.com/
   
 
 
    
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