身長
170cm
出身地
福岡県福岡市
出身校
日本女子大学附属高等学校→
日本女子大学
入社年月日
2001年4月1日
星座
蠍座

2014/4/7    「最後の梅」

「明日、梅見に行く?」

深夜の勤務に向かう途中、母からのメール。
青梅市の梅が、開花しているらしい。
翌日が休みとは言え、午前1時のニュースを終えて帰宅すると、眠るのは大抵明け方だ。
起きられるかなぁ。
「11時のバスに乗ります」
「動きやすい恰好でね」
返信出来ずに迷っていると、「お弁当の卵焼き、甘くする?」
梅でなくとも、甘い香りに誘われた。

新宿、西荻窪、国分寺。
平日の中央線は、随分と空いている。
立川、昭島、福生。
日差しはとろり半熟で、卵焼きにはまだ早い。

青梅駅の改札口で母と落ち合い、先にバス停で並ぶ父の元へ向かう。
ことこと揺られたのち、紅白に染められた吉野梅郷が見えてくる。
満開には少し早いが、レースを纏ったような山肌もまた美しい。

「お昼にしましょう」
母のカバンには、いつでも何もかもが入っている。
この日もバックパックから小さく畳まれた敷物を取り出し、
人数分のお絞りケースを手際よく配り、みるみる配膳が完了した。
七分咲きの淡紅の下、早速、卵焼きに箸を伸ばす。

一斉に見頃を迎える桜とは違って、梅は品種によって咲く時期が異なる。
早咲き、中咲き、遅咲きと、徐々に開花するために長期間楽しめるという。
「ぱあっと咲く方が綺麗じゃない?」
魔法瓶からお茶を注ぎながら、母が言う。
「それぞれの歩幅も大事だよ」
立ち上る湯気の中、父が静かに応える。

かつては120種以上咲き誇ったこの場所も、近年は梅の木を弱らせるウイルス感染が進み、
今年の観梅期以降、約1300本全てを伐採することが決まっている。
「もう、咲くことは出来ないね…」
元の姿に戻るまでは、最低でも10年は必要だという。

やわらかい風に敷物がひらり。
巡ることのない春は、色彩を滲ませてしばし佇む。



(3月31日配信)   

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