- 170cm
- 福岡県福岡市
- 日本女子大学附属高等学校→
日本女子大学 - 2001年4月1日
- 蠍座
今年は、糠床。
確か、去年はテリーヌ鍋だったと思う。
ナプキンリング、かたつむり型の鍋つまみ。
誕生日もクリスマスも、妹への贈り物は代々「食」にまつわるものが多い。
姉妹そろって美味しいものには目がないが、
彼女の場合、味わう以前に、食材や調理器具にもその興味が及ぶ。
先日、伊勢丹の地下で一緒に買い物をしたところ、
人気店のバウムクーヘンの行列に並ぶ私の傍ら、枝付きレーズンを探し回っていた。
カレーはスパイスから。
味噌は大豆と麹から。
最近のお気に入りは“焼き網でトーストを焼くこと”らしく、
嬉々として献立の写真が送られてくる。
「この焼き目が美しいでしょ?」
トースターで焼く時間すら惜しい朝を迎えている身としては、返事に困ってしまう。
「ねえ、三食きちんと食べてる?」
こちらも返事に困るので、黙ってコーヒーをかき混ぜる。
仕事帰りに立ち寄った妹宅。
お互いが近所に住んでいることもあり、姉妹で部屋を行き来することが多い。
お代わり分の豆を挽く音を聞きながら、スマートフォンで会社のメールをチェックする。
ベランダの先には、運河と高層ビル。
窓を開けると、とぎれたピアノの音が聞こえてくる。
小学生の頃、妹はピアノの練習を好まず、バイエル教則本を卒業せずにやめてしまった。
「ピアノとは仲良くなれなかった」
あっけらかんと言い放つ妹を前に、怒るに怒れない母の顔を今でも覚えている。
片や、ソナチネアルバムでつまずいていた姉。
「ピアノやめたい」はおろか、「レッスンがつらい」などとは到底言えなかった。
「お姉ちゃん、出来たよ」
コーヒーの深い香りに、記憶の肩を叩かれる。
「さっき、スマホが鳴っていたけど…」
番組ゲストの確定だろうか。それとも、打合せの時間変更かな。
ドレミファソラシ。
速弾きのような一週間が、今週も過ぎていく。
二杯目のコーヒーには、泡立てたミルクが乗っていた。
スマホのチェックをすっかり忘れて、マグカップに見惚れる。
「あ、そうだ。糠漬け持って帰る?」
美味しく漬かったよと声を弾ませながら、忙しなく台所に消える。
今日はご飯を3合炊こう。