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8月24日 世界最強ロシアシンクロの秘密

タチアナさんにはこよなく愛するものがありました。
時間が許せば、ボリショイ劇場に足を運びます。



「これはカルメン、こちらは白鳥の湖なの。」とタチアナさんはどんどんご機嫌になっていきます。
エレーナコーチ:「タチアナさんはバレエをなさっていたんです。」
タチアナ:「今日の演目も踊ったことがあるんですよ。」


タチアナさんの一番のお気に入りはモイセーエフ舞踊団です。ビデオを見ながら、シンクロのイメージを膨らませます。
「シンクロならここは泳ぎ始めるパートですね。」



毎朝体操のあとに行われるランドドリルはさしずめバレエのレッスンといったところでしょうか。

タチアナ:「ここの手の動きを気をつけて、どう動くの?」

手の細かな表現や身体の筋肉の使い方まで合わせていきます。




過去タチアナコーチが作った演技にはバレエやダンスの要素がいたるところに散りばめられています。

世界中のコーチが絶賛する、曲のイメージどおりの振り付け。
バレエや新体操など、タチアナコーチの経験がすべてここに凝縮されているのです。

タチアナ:「私は機械的な手足の動きには興味がないんです。様々な物語が水の上で展開していくことが重要なんです。」




自分の頭の中に描く物語の映像をもとめて、タチアナコーチの要求はエスカレートしていきます。代表チームに入る選手たちの基準もはっきりしています。

タチアナ:「ほかのコーチが反対しても、私は、才能がある子よりも努力家の選手を選ぶんです。」

こうしたタチアナコーチの指導に対して、選手たちはどのように思っているのでしょう。
「最高のコーチ」
「要求が高くてエネルギッシュで、」
「練習の仕方がとても独特なの。」
「だから 勝てるのよ」


 
クジェラ 21歳                ロマーシュナ 17歳


さらに、彼女たちの本音を聞きたくて、すし屋に誘ってみました。

クジェラ:「もちろん時々うんざりすることもありますよ。」

ロマーシュナ:「でも、タチアナコーチのお蔭で結果が出るんですもの。」

クジェラ:「とっても怖いコーチで、私たちが怯えてるようにみえるでしょう?本当は意見をよく聞いてくれるのよ。」

ロマーシュナ:「新しい曲にする時は、この音楽どう思う?って必ず聞いてくれるんです。」



 2006年9月 ワールドカップ横浜大会              ロシア独特のメイクアップ        


コーチと選手の絆は試合の場でいっそう強まります。

最後のアドバイスは、心を表現すること。



神様のご加護がありますように、十字を切って送り出すタチアナコーチ。




チーム フリールーティーン


リムスキー・コルサコフのシェヘラザードにのって千夜一夜物語を演じていく選手たち。

オリエントの王侯の宮殿
噴水、塔、城砦をイメージした演技が続きます。

後半は囚われの姫たちのダンスから陰謀へと続き
最後は正義が勝つというストーリーです。




芸術点で10点が続出し、この大会ロシアの優勝が決定的になりました。





インタビューゾーンでも興奮冷めやらぬ選手たち。
宮嶋:「タチアナコーチがVサインを出していましたよ。」
クジェラ:「わあ!それこそが私たちにとって最高の勲章ですよ。」

ロシアチームはこの3月に行われるメルボルンの世界水泳で11年連続優勝を狙います。



宮嶋:「タチアナさんの目指すシンクロはどんなシンクロですか?」

「私はバレエのようなシンクロをやりたいんですよ。いつかこの夢が実現できたらいいんだけれど。」



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【編集後記】
美しい白鳥の水面下での足の動きを見たような思いです。
ロシアのあの美しさを支えているのが、新体操の選手訓練法であり、動きの基本になっているのがバレエであるとは、取材をするまでまったくわかりませんでした。
ロシアの中にある文化がシンクロを通して開花していたのです。
井村コーチが日本の舞踊の要素を取り入れようとしていた意図も理解できるような気がしました。
スポーツとは、文化に根ざした身体表現であるとまたまた感じ入ってしまいました。

暖冬で雪がまったくない12月のモスクワ取材でした。

 
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