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11月11日 運動嫌いが変わる?タグラグビー

 
子供たちの体力が低下の一途をたどっています。運動嫌いな子供たちが、体育の時間が待ち遠しくなるという新しいスポーツがあるそうです。取材をしながら、私、宮嶋もびっくり。小学生の頃このスポーツと出会っていたら体育の時間がもっともっと楽しかったんじゃないかなと思ってしまったほどです。さあ、それは一体どんなものなんでしょうか。

11月12日 ニュースステーションで「運動嫌いが変わる?タグラグビー」を放送する予定です。そこで、その概要をお伝えしましょう。

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子供たちに体を動かす楽しさを知ってもらおうと、様々なイベントが開かれ、現役のスポーツ選手やコーチたちが子供達に接し、直接指導するケースがこのところ増えてきました。

この夏、パリで行われた世界陸上200メートルで銅メダルを獲得した末続慎吾選手も子供たちに走る楽しさを教えている一人です。その末続さんに聞いてみました。

「子供の頃はどんな遊びが一番好きでした?」

「鬼ごっこですね。鬼にされていやだって思うほうじゃないので、どんどん捕まえちゃう、全員捕まえてやろうかなと、楽しかったですよ。」

最近は、外で遊ぶ機会が少なくなった子供たち。
トップアスリートたちも、現代っ子の体力の衰えには危機感を感じているようです。

そんな中、都会の子供たちの間で人気が出始めているスポーツがあるんです。タグラグビーです。

神奈川県にある座間市立東原小学校・高山由一教諭によれば、

「タグラグビーをやって、体育が苦手だった子たちが体育を好きになった、球技が好きになった、スポーツが好きになった、そういう子が多いです。」とのこと。

一体、タグラグビーとはどんなもので、どんな魅力があるんでしょうか。

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ラグビーと言えば、華麗なるパスとトライ、そして、タックルのダイナミックさが魅力のスポーツですが、子供たちにとっては、タックルはちょっと危険です!

そこで、10年程前にイングランドで考案されたのが、タックルの代わりに、腰につけたタグを取るゲーム、タグラグビーです。

二本のタグを腰につけて、楕円形のボールを手に走る子供たち。タグを取られたら3秒以内にボールをパスをしなければなりません。

もちろんラグビー同様、ボールを前にパスすることは禁じられているので、横か後ろにパスをだします。
子供たちは今までのスポーツとはちょっと違う動きを楽しんでいます。

ラグビー協会でこのタグラグビーの普及に努めているのは石塚武生さんです。

石塚さんは、かつて早稲田大学と社会人のリコーで活躍し、28キャップを獲得した名選手でした。

今、タグラグビーを教えに日本全国を回っています

「九州も行きますし、東北は少ないですけれど、小学校でやるのは関東が多いですね。」
この日は、神奈川県座間市にある東原小学校の3年生が対象です。

タグラグビーをするのはこの日がはじめての子供たち。

石塚さんは子供たちにタグのつけ方を教えると、「さあ、みんな散ってください。少し動きましょう!」と号令をかけ、突然「女の子は男の子のタグをとれ!」と叫びます。そのとたん、きゃあーと言う声とともに、子供たちが走り回ります。

最初は、タグを取る「鬼ごっこ」から始まりました。

いつも体育の時間は引っ込み思案な女の子も懸命に追いかけます。

一緒にタグを取るのに走り回っていた3年2組の担任、長橋桂子教諭も目を細めます。

「鬼ごっこはみんな皆基本的に好きだから・・・」

鬼ごっこに続いて、子供たちは楕円形のボールをはじめて手にします。

「前に走ってやさしくパス!」石塚さんの号令に従って、横一列に並んだ子供たちが、そろそろと前に進みながら、1メートル程離れている横の子供にボールを渡していきます。

「OK!うまいうまい・・」

「良い感じだよ。」

「そうそう、それで良いの。がんばって!」

石塚さんと長橋先生は子供たちを励まします。

前に走りながらボールを横にパスすると言う、今までやったことのない動作に戸惑いながらも、子供たちはあっという間に体で覚えていくようです。

50分の授業はあっという間に終わってしまいます。

石塚さんが最後に
「楽しくてもう一回やりたい人?」と言うと、なんと、全員が手を上げていました。

もちろん、引っ込み思案だった女の子たちの手も上がっていました。

タグラグビー石塚さんの二度目の授業ではよりゲームに近い形で実践的な練習に入っていきました。

ボールを持った子供はひたすら走り、ボールを持たない子供はそのタグを狙って追いかけます。

女の子も、ボールを抱えて必死で逃げます。子供たちが大好きな鬼ごっこが、こんな形でできるとあって、皆おおはしゃぎです。

タグラグビーのまず入り口は子供たちが大好きな鬼ごっこにあるようですね。子供たちにとってはゼロからはじめるスポーツですが、入り口が鬼ごっこと言うことであれば、誰もが躊躇なく遊べるスポーツのようですね。

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さて、ラグビーと言えばその発祥の地はイギリスですよね。本家イギリスではどうなっているのかを見てみることにしましょう。

今ロンドン市内の小学校でもタグラグビーは盛んに行われています。私たちはロンドン市内にあるゴスペルオーク小学校を訪れてみました。

タグラグビーは誰でも安全に手軽にできるとあって、保護者たちからの評判もよいそうです。

この日、タグラグビーをしていたのは9歳から10歳の子供たちです。

タグラグビーの魅力をグーイング先生は次のように話してくれました。

「タグを取られたら、3秒以内にボールをパスするので、子供たちには考える力がつくんです。パスや、試合運びを考えるんです。」

タグラグビーの面白さは、動きながら瞬時に判断して、それを行動に移していく、頭と体を同時に使っていくことにあるのかもしれません。

「タグラグビーがとっても好きな人!」と聞いてみると、皆一斉に手を上げました。
「タグを取ったときに「タグ!」って叫んで皆に見せるのが好きなの。」
「次はこうやろうって指示するのが好きなの。」

子供たちはタグの魅力を語ってくれました。

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座間市立東原小学校で、体育主任と、担任を務めながら、去年まで大学院に通っていた高山先生(38歳)は、タグラグビーの効果を様々な角度から調査して、「チームスポーツが仲間意識に与える影響」と題して修士論文にまとめました。

高山先生が担任を勤める6年生は、去年からタグラグビーを行い、それ以来、様々な変化が現れてきたと言います。

1年間タグラグビーと親しんできた6年生の子供たちはこんな感想を語ってくれました。
「皆にパスが回れるし、なんか楽しい。」

「誰でもボールに触れられる。」

「そうなの?じゃあ運動苦手でも?」「うん、ボールに触れる。」

「この中で、今まで体育の時間嫌いだった人いますか?」

「はあい」

「あっ、じゃあこっちにきてお話をきかせてくれるかな?」

「今まではあんまりボールと触れないし、サッカーとかそういう時は一人隅っこに立ってたこともあったんだけれど、タグラグビーだと、皆からボールが回ってきて苦手でも楽しくなりました。」

タグラグビーの基本とも言えるパス。このボールを後ろに回していくパスが思わぬ効果を生み出したのです。

高山教諭は運動嫌いな子供でもタグラグビーを楽しめる理由を次のように話してくれました。

「他の球技ですと、どうしてもワンハンドで強く投げちゃったりとか、球技が得意な子が活躍しがちなんですけれど、タグラグビーの場合はボールは前に投げられないので、球技の時には後ろでじっとしている子供達が、ボールに触れるチャンスが多いんですね。だから普段は球技が苦手な子、または体育が苦手な子が、好きになっちゃったんですね。」

高山教諭が調査して作った表を見てみると、赤で示されるように、運動が苦手だった子供たちが体育の時間を待ち望むようになったことがよくわかります。

このほかにも、様々な興味深いデータがありました。

高山先生は続けます。

「特にタグラグビーでは、人を生かすというところが子供達が感じたのが多くて、ここに書いてあるように「あまり人を生かせなかったので、今度から人生かせるようにやっていきたい」とか、されてうれしかったことと言うところでは、「自分を生かしてくれたこと、だからもっと人を生かしていきたい」と言うようにお友達への気づきがとても芽生えたんじゃないかと思います。」

「個と集団と言うのをこどもたちはどちらも大切にできるようになったんじゃないかと思います。」

横浜市では、小学校の体育の授業の教材例として昨年度からこのタグラグビーを正式に取り入れるようになりました。

 
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ロンドンから北西に車で2時間ほど走ったところにある「ラグビー」と言う町。

その一角にラグビー・スクールがあります。

今から180年前、この学校で行われていたフットボールの試合中に、ウイリアム・ウェブ・エリスという少年が、興奮のあまりボールを手に持ったまま走り出し、ゴールに持ち込んでしまったことから、ラグビーと言うスポーツが始まったといわれています。

その後、近代スポーツとしてラグビーは青少年の育成を目的としてそのルールが整えられていきました。

「一人はみんなのために、皆は一人のために、」と言う考え方。

試合が終われば敵も味方もないノーサイドという言葉。

「ラグビーは子供をいち早く大人にし、大人に子供の心を持たせ続ける」と言う言葉もあります。

その精神は、いま、タグラグビーにも受け継がれ、誰もが楽しめるスポーツとして、子供たちの間でしっかり根を張り始めているのです。

<カメラ:藤田定則,(ロンドンカメラ:宮野亜美)、音声:佐藤茂、編集:松本良雄、選曲:伊藤大輔、MA:濱田豊、ディレクター:宮嶋泰子>

   
 
    
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