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10月1日 採点競技 Synchronised Swimming 世界水泳バルセロナ

 
世界水泳バルセロナ大会から早くも2ヶ月がたちました。
あの大会を振り返りながらシンクロナイズドスイミングについて考える企画をつくりました。いやあ、本当に採点競技って難しい!
ニュースステーションで10月3日に放送の予定です。
その概要をお伝えしましょう。
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  美と技を競う採点競技・シンクロナイズドスイミング
この夏バルセロナで繰り広げられた華麗なる闘いの裏側には選手やコーチたちの様々な思いがありました。

【立花美哉】
「私は20年シンクロやっているけれど、その中でも一番辛かったですね。」

【武田美保】
「正直、どうしてっていう、感じが」

【井村雅代コーチ】
「よいと思ったものに点が出ないし、何でって言うものに点が出るし、人感動しなくても10点出るし」

【宮嶋泰子】
「採点競技を見ていると、なぜこんな得点が出るのだろうというシーンに出くわします。人が人の演技をジャッジする難しさ。こうした点を選手やコーチたちはどう捉えているのでしょうか。来年のアテネ五輪に向けてスタートを切ったシンクロ選手たちに今年の世界水泳を振り返りながら話を聞いてみました。」

【採点競技・Synchronised Swimming 世界水泳バルセロナPlay Back】

今年の7月バルセロナで行われた世界水泳。

デュエットでは最初から首を傾げたくなるシーンがありました。
7月14日に行われた、技術力を見るテクニカルルーティーン。
日本は出場34カ国中、7番目と早い出番でした。

Sakura2003の切れのよい曲に乗って、決められた9つの規定要素を次々にクリアーしていく立花・武田のふたり。

ところがその得点を見て唖然。

規定要素をいかにこなしたかを見るエクスキューションで、9.0と 9.4が出ているのです。

「何で9.0か聞いてみたい気がします。」と立花選手。
「二人がコンビを組んでから記憶にない得点じゃないですか。」と私も興奮気味にたずねます。
「なかったです。最低・・最低でも9.4も出たことがないって言う感じですけれど。」
武田選手もかなり興奮気味に答えます。

一体これはどういうことかと、井村コーチも動きます。
選手で入り口でチームマネージャーと一緒に、大会関係者に詰め寄る井村雅代コーチ

調査の結果、これはフランスのジャッジのミスとわかりました。
ペーパーには9.8と書いて提出したものの、電子キーで打ち込むときに、9.0と押してしまったのです。15分後、9.0は9.8と訂正されました。

しかし、コロンビアの審判が出した9.4 はそのままです。
この採点にはロシアの選手団さえも呆れ顔。
「あの審判の採点はめちゃくちゃだ、クレージー。」と言いはなったのです。

井村コーチは振り返ります。
「あの人は見えていないと思ってます。怒ってもしょうがないけれど、見えてないと思います。やっぱり選手とコーチって言うのは一人のジャッジから0.1を取るためにすごくやっているわけじゃないですか。そのことはわかっていない。」

日本がジャッジに対して不信感を募らせたテクニカルルーティーン、
ライバル・ロシアは最後の34番目に登場してきました。

若さにものを言わせた、高さのある足技を見せます。
得点は9.9と9.8が並びます。

E:9.8 9.8 9.9 9.9 9.8
0I:9.8 9.9 9.9 9.9 9.9

世界水泳解説者 ソウル五輪銅メダリストの田中ウルヴェ京さんは、このテクニカルルーティーンの結果を見ながら、こう話します。
「確かに日本の足技には高さがなかったのですが、ロシアはそれ以前に、足技にすごく未熟なものがたくさんあって、こういうスピンでもがたがた揺れている。それをなぜジャッジは見なかったのかなと疑問です。」

規定要素のスピンをみてみると、ロシアのデュエットはがたがた上下に揺れています。
一方日本のスピンは滑らで、二人の角度までぴったり合っています。

随所に見られるロシアの技の未熟さは、パワーの裏に隠れされて見えにくくなっているのかもしれません。

かつて、個々の選手の技術力は「フィギュア」と呼ばれる競技でチェックされていました。静まり返った会場で決められた型を競う、いわば規定にあたるものでした。
しかし、今ではこれが、テクニカルルーティーンに変わりました。そこで規定の技術力がきちんとチェックされているかと言うと、はなはだ疑問といわざるをえません。

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今回の世界水泳バルセロナ大会ではアーティスティックインプレッションに関しても、考えさせられるシーンが多くありました。

フリールーティーンでは、日本はこれまでと全く違う新しいシンクロに挑戦しました。
試合前夜、ホテルではフランス人振り付け師ステファン・メルモン氏が最後のチェックを行っていました。カウントできりきざむのではなく、「トッカータとフーガ」の曲にあわせて流れるように動く作品です。

7月18日 デュエット・フリールーティーン決勝の日を迎えました。

20歳のロシアデュエットと日本のベテラン二人の対決。
先に演技をするのはロシアです。

この3年間、同じ路線の器械体操のようなきびきびとした動きです。
シャークスをテーマに一定のリズムで休む間なく動きつづけます。

二人の動きはぴったり。
長い脚。
ダンチェンココーチがじっと見つめます。

そして、ロシアの直後に、日本が登場です。

テーマは風とバイオリン
トッカータとフーガの曲に乗って、ゆっくりとしたモーションから、急に早くなるカウンターポイントが見事です。

会場がシーンと静まり返ってプール中央の二人に全ての目が注がれます。

この二組の得点です。
先に演技を終えたロシア。
テクニカルメリットが9.9オール
アーティスティックインプレッションでは10点が4つ。

【ロシア】
TM:9.9 9.9 9.9 9.9 9.9
AI:10 10 10 10 9.9

日本に対してはいずれの審判もロシアよりワンランク下の得点です。

【日本】
TM:9.8 9.8 9.8 9.8 9.8
AI: 9.9 9.9 9.8 9.9 9.8

日本はより芸術性をたかめるために、新しい動きを追求してきたのですが、
アーティスティックインプレッションで10点が4つ出たのはロシアでした。

武田が「正直、えっ!そんな、ありえへんやろうと、そこまで思いました。」と言えば、

立花も「何にアーティスティックを感じたのかなとは一瞬思いますね。」と話します。

記者会見で外国人プレスから「アーティスティックインプレッションではロシアよりも日本やスペインの方が勝っていたのではないか」と言う質問が出され、ロシア選手団が慌てるシーンもありました。

元ロシア代表で現米国代表のアンナ・コズロワ選手は
「日本の方がアーティスティックな面ではリードしていたと思います。私はあの斬新さが大好き。最高ですね」と絶賛してくれました。

米国のナンシーコーチも「日本の動きはNO.1ですよ。」とのこと。

ロシアのポクロフスカヤ総監督にも伺ってみると、なんと、意外な答えが返ってきました。
「日本がクラシックに立ち返った点は大変評価できます。音楽もよかったですね。」
ポクロフスカヤコーチ自身、こうした芸術的な動きがお気に入りのようなのです。

ただ、同じロシアでも、若手を直接指導しているダンチェンココーチは「今回はちょっと懲りすぎたんじゃないですか。」と王者の余裕を見せていました。

それにしても、アーティスティックインプレッションとは一体何なのでしょうか。
アーティスティックインプレッションの採点に関して、ソロのチャンピオン、フランスのヴィルジニ・デデュー選手はこのように発言しています。

「アーティスティックインプレッションは、だいたいテクニカルメリットと同じような得点になっています。テクニカルの得点に引っ張られてアーティスティックの点がでているんです。私たち選手やコーチはそのことがわかっているので、審判の採点とは違う、自分たちの目を信じているんですよ。」

ジャッジを監督する立場の国際水泳連盟技術委員会のメンバーは、こうした問題に対してどのように思っているのでしょうか。

メキシコのスー・エドワードさんに聞いてみました。
「ジャッジにとってアーティスティックインプレッションを採点することは簡単ではありません。何がテクニックで何がアーティスティックかという特別なガイドラインをジャッジ用に作る必要がありますね。最近は動きも速くなっているし、いろいろな表現が出てきているので、整理する必要がありますね。」

今国際オリンピック委員会は競技の見直しを行っており、シンクロは2008年までは正式種目として存続することが決まりましたが、その先、どうなるかはわかっていません。

シンクロは今様々な問題を抱えています。
立花美哉選手のこの証言は、まさにシンクロ選手が置かれている現実です。
「私たちが難しいことと、審判の先生が見て、難しいと思うことは違うんですね。私たちがこれは難しいとやっても、それはあまり難易度があるように見えないと、ロシアがやっているこういうほうがいいといわれるときがあるんですけれど、実際それをやってみると、案外出来たりするんです。」

また、井村コーチの思いも複雑です。
「いいと思ったものに点でないし、何でって言うものに点出るし、こんなわかりにくい競技ないと思いました。やっている私が思いました。今まではなんとしてもオリンピックの競技として残って欲しいと思っていましたが、今回の世界水泳であまりにわからないことが多すぎて、IOCのロゲ会長がシンクロを削減種目の対象にしているのがよくわかりました。」

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世界水泳が終わってから一ヵ月後、振り付けを担当したステファン・メルモン氏が日本に再びやってきて、井村コーチと再会をはたしました。

久々にステファンに会った井村コーチは興奮気味に自らの思いを伝えます。
「時間を置いて距離を置いて、あの演技を見たら、素晴らしいと思ったんです。私の選手って素晴らしいって。これで私はコーチとして30年になるんですけれど、その中で忘れられない作品です。確かにゴールド取れなかったけれど、私はあのルーティーンに凄いプライド持っている。サンキュー!」

肯きながら聞くステファン。
「本当に自信を持って良いですよ。多分どんなことをやろうと、ロシアを勝たせたかったのでしょう。」
「私もそう思います。」
「審判システムそのものが今よくないんじゃないでしょうか。」
どんどん話が進む二人。
突然、井村コーチが笑いながら切り出します。
「来年どうしよう?!」
「とにかく速く速く・・ロシアみたいに速く速く・・・」
「あははは・・・やっぱりそう思う?」
バルセロナを振り返りながらも、もはや心はいかにアテネで闘うかに思いをめぐらせているの井村コーチでした。

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井村コーチは今年でシンクロコーチ暦30年ですか。
そうすると・・・私、宮嶋はシンクロ取材暦24年と言うことになりますか。
井村コーチが最初に教えていらした双子の藤原姉妹のアメリカンカップでの試合を実況したのが私のシンクロとの最初の出会いです。途中虫食いのように抜けているところもありますが、元好、小谷、田中、奥野、高山、立花、武田と本当にたくさんの魅力ある選手の取材をさせていただきました。こんなチャンスを下さった方々に感謝!

さて、バルセロナの世界水泳でのシンクロ選手たちの様子は、このHPの「世界水泳特集」でも随時お伝えしてきたので、すでによくおわかりのことと思います。
しかし、大会後、改めて選手たちに話を聞くと、審判と現場の選手コーチの間にはかなりの深さの溝があることに驚かされました。
審判の側も、選手コーチの側も、自分たちが上と言う意識ではなく、お互いにシンクロをどのようにすればより魅力的なものになるかを考えて、協力し合っていく必要があるのでしょう。

2001年の6月にロシアのシンクロ事情を取材したのですが、その時に強く印象に残ったことは、ロシアでは審判とコーチが実によく話し合って協力しているということです。普段の練習にも毎日のように審判たちは顔を出しています。プールサイドにちょこんと座って、何時間も選手の動きをじっと見ているのです。皆でシンクロを作り上げようと言う意識がとても強いのでしょう。
審判は選手を採点する立場ですから、偉い立場にいるように思えますが、ロシアの審判たちからはそんな態度は全く感じませんでした。コーチの創作するものに敬意を払いつつ、何を模索しているのかをじっと観察しているといった感じなのです。国内にあってジャッジたちはコーチの最高のサポーターになっていると言う印象を受けました。まさに国を挙げてシンクロで闘っているというイメージですね。

まあ、女エリチィンといった感じで、白髪を振り乱して指導しているあの大柄なポクロフスカヤコーチに練習中に口出しなんてしたら、張り倒されてしまいそうですけれどね。おっと失礼!(笑)

   
 
    
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