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2月20日 津波から再生したピアノ


私が入っていてすみません…

こちらの1台のピアノ…
新品のように輝いていますが、
実は、大変な経験をしたピアノなんです。

3月11日、
津波は石巻のピアノ店「サルコヤ」も襲いました。




ピアノは泥と潮水とをかぶり、再生不能と言われました。
でも、82歳の井上社長は諦めませんでした。




なんとか再生させたい。
大勢の人たちの協力を得て、5ヶ月後、ついにこのグランドピアノを復活させたのです。

このピアノの話は、
諦めない気持ちへの賞賛とともに、
震災からの立ち直りという象徴的な存在となって広まり、
ついには、
スイスで行われたダボス会議でピアニスト辻井伸行さんが演奏する様子が流され、
世界へと伝えられました。

そして、震災発生から約11ヶ月の2月5日、
私もその再生ピアノに会うことができました。
再生ピアノは、中央公民館で合唱する大勢の石巻市民に囲まれて輝いて見えました。
憧れの人に出会った時のようにドキドキしながら近づくと…
あちこちに傷が残っています。



濁流の中、踏ん張って、耐えていたのでしょう。
どんな音を奏でてくれるのでしょうか。
「♪〜」
包み込むような音色。
音に重みもあり、優しさもあり…
「今日は特に調子がいいようですね。」
井上さんは顔をほころばせました。
何度も何度も手を加えて、調律し直して、この完成度の高さに至ったのだとか。

合唱を終えると、
子どもたちがピアノを取り囲み、我先にと弾き始めました。




井上さんは止めようとしません。
ダボス会議で紹介されるようなピアノ、もっと高尚な存在かと思っていましたが・・・
「私も最初はそう思っていましたけどね、
やっぱり、できるだけたくさんの人に触れて欲しいと思っているんです。
子どもたちにも弾いて欲しい。」
井上さんが子どものころ、
ピアノは、鍵がかけられ、弾きたくても弾けない遠い存在だったそうです。
もっと身近な存在であるべきではないか、
そして被災した今だからこそ、子どもたちにピアノや音楽が必要なのではないか…。
そんな思いを、笑顔で語ってくださいました。




「他のピアノも、修復しようと思っているんです。 
店頭に置くので、いつでも見に来てください。」
井上さんの思いは力強く先を見据えていました。

松尾も10年間ピアノを習った端くれ、
少しだけ・・・
ポロン・・・
重みのあるグランドピアノの鍵盤の感触、
弾む豊かな音、
正確に調律された1つ1つの音符がこぼれ落ちてきます。
大勢の人たちの愛を受けて第2の人生を歩み始めた再生ピアノ、
これから先、もっともっとたくさん弾いてもらって、
音楽を通じて大勢の人に伝えられるといいですね。

   
 
    
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