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Vol.16 (2006/04/14)  映画「真夜中のピアニスト」
 

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『真夜中のピアニスト』を鑑賞
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『ルパン』のロマン・デュリス主演である。
『ルパン』ですっかり、わんぱくでいて上品セクシーなロマン・デュリスに
魅かれていたし、『真夜中のピアニスト』という題名に、幼少からピアノを
続けてきたせいで「ピアノもの」に引き寄せられずにいられない習性が反応し、
結局劇場へ向かった。
結果、見事に裏切られた。

というのは、「1800円を返して!」という意味ではない。
『真夜中のピアニスト』という題名から描いていたイメージと違っていたのだ。
ロマン・デュリスは、華麗に鍵盤を操るピアニストではなかった。
「ピアニストだった亡き母のコンサート・マネージャーに再会し、10年ぶりに
ピアノを弾き始め、フランスに来たばかりの中国人女性の特訓を受ける。」
というPR映像を見ていたから、てっきり、
才能にあふれたピアニストぶりを発揮する様を熱演するロマン・デュリス
を見られるのだろうと勝手に期待していた。

ところが。
彼の演じるトムは、天賦の才能を与えられたピアニストではない。
どころか、必死にピアノと格闘するにもかかわらずうまくいかない。
追いかけても追いかけても届かない片思い。ピアノに振り向いてもらえない。

ピアニストだった亡き母親。
暴力的な手段も辞さない裏社会に身を置く不動産ブローカーの父。
ピアノから離れ、結局父親と同じ道を歩んだ自分。
ピアノに戻ることを許さない父。

父親の支配から逃れることを望んでいるというのに、
老いて弱っていく父親を目の当たりにして居たたまれなくなるトムの葛藤は、
息子であり娘であるあなたや私が、大人になる時に経験せざるを得ない痛み
ではないだろうか。自分に圧倒的な力をかざす親へ、時に制御の利かない
反抗心を抱えながら、それでも親には永遠に強いままでいてほしいという
矛盾へのやりきれなさ。大人になるには痛みが付き纏う。

だからこそ、「トムのピアノ帰り」=「亡き母に帰っているということ」
という単純な公式では済まされないと感じた。
ピアノ(亡き母)に助けを求めれば求めるほど父への感情が立ち上がるはずで、
そんなままならない心との戦い、そして対話でもあると。

子が親を追い越す痛み、それはある意味で正常なプロセスがもたらす
残酷ともいえるだろう。
トムは28歳。同世代の人にこそ、33歳の私からお勧めします。
作品データ
『真夜中のピアニスト』
監督・脚本:ジャック・オーディアール
音楽:アレクサンドル・デプラ
出演:ロマン・デュリス、ニールス・アルストラップ、オーレ・アッティカ、
エマニュエル・ドゥヴォス、リン・ダン・ファンほか

配給:2005/フランス/カラー/メディア・スーツ、ハピネット・ピクチャーズ

“近況”
ここ最近またピアノをよく弾くようになりました。
実家で育った頃から使っているグランドピアノなのですが、
入社して数年はずっと眠らせてしまっていました。
思いっきり弾いた後、違うことしたりご飯食べたり、それからまた弾いたり、
という気ままさから鍵盤の蓋を開けっ放しにしてしまうことがあるのですが、
先日いきなり「ぼろろーん!」と鳴り響く不響分散和音に驚かされました。
なんてことはない、猫が鍵盤の上を歩いただけだったんですけどね。
ぼろにゃん
(2005.10.14掲載)

   
 
    
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